※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。
「ねえ、来月の引き落とし、また少し証券口座から移さないと足りないわよ。娘の学校の寄付金も振り込まないといけないのに」 ダイニングテーブルの上で、妻の理恵さん(43)がため息をつきました。夫の健太さん(47)は、手元のスマートフォンで証券アプリの画面を見つめたまま、言葉少なに頷くだけです。
夫婦と、この春から念願の私立小学校に入学した長女の3人家族。健太さんは中堅企業の営業部長で、理恵さんも時短勤務をこなしており、世帯年収は1,200万円(月の手取り約65万円)に達します。激しいお受験戦争を乗り越え、誰もが羨むエリート家族のレールに乗ったはずの彼らですが、その内情は「毎月赤字の自転車操業」という深刻な事態に陥っていました。
「お受験の慰労」で狂った金銭感覚とサブスク依存
長女の小学校受験という一大プロジェクトを終えた昨年の秋以降、夫婦は「これまで頑張ったご褒美」として、生活のあらゆる場面で財布の紐を緩めていきました。
えきねっとやスマートEXを駆使し、週末になれば新幹線で軽井沢や京都へふらりと家族旅行へ。平日は仕事と育児の疲労を理由に、Uber One(ウーバーワン)の定額メンバーシップを継続し、週に3日は夕食をデリバリーで済ませる生活が定着しました。
「時間と心に余裕を持たせるための必要経費だと思っていました。夫婦ともに働いていますし、息抜きがないとやっていけませんから」(健太さん)
しかし、1回数千円のデリバリー代や、月に10万円近く飛んでいくレジャー費は、確実に家計を蝕んでいました。気づけば、食費とレジャー費だけで毎月20万円以上が消滅するメタボ家計が出来上がっていたのです。
私立小の「隠れ出費」と証券口座への過信
そこに追い打ちをかけたのが、長女の私立小学校での想定外の出費でした。 授業料こそ事前にシミュレーションしていましたが、入学してみると、制服の夏冬の買い替え、指定のランドセルやカバン、一口数万円の寄付金、さらには周囲の家庭に合わせた長期休みの海外キャンプ費用など、「見えない固定費」が次々と襲いかかってきました。
ファイナンシャルプランナーのA氏は、この夫婦が陥った罠を次のように指摘します。 「文部科学省の『子供の学習費調査』を見ると、私立小学校の学習費総額は年間約166万円に上りますが、これはあくまで平均です。学校によっては交際費や寄付金でさらに膨らみます。健太さんのお宅は、お受験が終わった解放感で生活水準(ライフスタイル・インフレーション)を上げてしまったところに、私立特有の重い固定費がのしかかり、完全に収支バランスが崩壊しています」
健太さんは日頃から金融系のガイド本を読み込み、SBI証券や楽天証券を駆使して夫婦で毎月15万円をNISAで運用していました。「いざとなれば投資信託がある」という慢心が、日々の浪費を正当化していたのです。しかし、教育費の支払いが重なった月に相場が下落局面に陥り、健太さんは「今売ると損をする」と現金化をためらってしまいました。
その結果、引き落とし口座の残高がショートし、理恵さんがこっそりクレジットカードのリボ払いで生活費を立て替える事態に。新幹線で優雅に旅行を楽しんでいたはずの家族は今、終わりの見えない教育費とカードの支払いに追われ、リビングには重苦しい空気が漂っています。投資の知識を集めても、足元の「身の丈に合った暮らし」を見失えば、家計は簡単に破綻してしまうのです。
【コラム】私立小ファミリーを追い詰める「NISA貧乏」の罠
① 「投資=貯金」という危険な勘違い 投資信託は資産形成に有効ですが、元本割れのリスクがあるため「数ヶ月以内に必要になるお金(学費など)」の置き場所には適していません。NISAの枠を埋めることに躍起になり、手元の現金(生活防衛資金)をスッカラカンにしてしまうと、突発的な教育費の請求に対応できず、高金利の借金に手を出してしまう本末転倒な事態を招きます。
② サブスク・デリバリーの「少額課金」を見直す 高収入世帯ほど、月に数千円〜数万円のデリバリー代や有料サービスの継続費を「必要経費」と見なしがちです。しかし、これらは年間で数十万円の支出になります。私立小など固定費が跳ね上がるタイミングでは、まずこうした「ラテ・ファクター(無意識の少額支出)」を徹底的に洗い出すことが急務です。
【リアル家計簿】都内マンション在住・Kさんの事例
【基本情報】
- 家族構成:夫47歳(会社員)、妻43歳(会社員・時短)、長女6歳(私立小1年)
- 住居:都内マンション(分譲・築10年)
【月々の収入】
- 夫 給与(手取り):450,000円
- 妻 給与(手取り):200,000円
- 収入合計:650,000円
【月々の支出】
- 住宅ローン返済・管理費:180,000円
- 食費(デリバリー多用・外食含む):120,000円
- 水道・光熱費:25,000円
- 長女 教育費(私立小授業料・積立・習い事):140,000円
- 交通費・レジャー費(新幹線旅行など):80,000円
- 通信費・サブスク(Uber One等):20,000円
- 生命保険・医療保険:25,000円
- 夫 小遣い:45,000円
- 妻 小遣い:30,000円
- リボ払い返済(私立小の寄付金等立て替え):35,000円
- 支出合計:700,000円
【差引収支】
- 毎月の赤字:-50,000円(※証券口座の取り崩しとボーナスで補填)
【金融資産残高】
- 普通預金(現金):300,000円(※危険水域)
- 証券口座残高(夫婦合計):約5,500,000円
- 家計の最大の問題点: 私立小学校入学により固定費が急増したにもかかわらず、旅行やデリバリーといった「ご褒美消費」を削れていない。現金を投資に回しすぎた結果、資金ショートを起こしてリボ払いに依存する「NISA貧乏」の典型例。
