令和の時代に生きる「銭(せん)」〜日本のモノづくりを支える内職のリアル〜

社会面

普段の買い物で「1円」未満のお金を意識することはあるでしょうか。キャッシュレス決済が普及した今、1円玉すら見る機会が減ったという方も多いかもしれません。しかし、国の公式な文書である「官報」をめくると、令和8年になった現在でも「銭(せん)」という通貨単位がしっかりと生きています。

令和8年6月19日に発行された官報に掲載された「最低工賃の改正決定に関する公示」に、その答えがあります。広島労働局は、広島県内で電気機械器具製造業に係る業務に従事する家内労働者(いわゆる内職)に向けた最低工賃を改正する決定をしました

そこに記載されている作業ごとの細かな単価を見てみましょう。 例えば、複数の電線を束ねる「ワイヤーハーネス」の結束テープ巻き(テープの長さ30ミリ、2回半巻き)は、1か所につき「85銭」です。自動車用のリード線端子をコネクターに挿入する作業(長さ1,500ミリ以下)は1か所「53銭」、基板への部品挿入(2本のリード線)は1個「68銭」と、1円に満たない「銭」単位の単価が厳密に規定されています

手作業によるはんだ付けでも、集積回路やコネクターに行うものは1か所「39銭」です。部品とリード線のはんだ付け作業になってようやく、1か所につき「1円30銭」と1円の大台に乗ります

85銭は、現在の価値で0.85円。単純計算で100円稼ぐためには、およそ118か所のテープ巻きをこなさなければなりません。最も単価の低い39銭のはんだ付けであれば、100円稼ぐのに約256か所もの細かい手作業が必要になります。

私たちが普段何気なく使っている家電製品や自動車の内部には、無数の精密な部品が使われています。最新のテクノロジーを誇る製品であっても、その土台の一部は、こうした家内労働者の方々の、文字通り「1銭単位」の根気のいる手作業によって支えられているのです。

物価高騰が叫ばれ、数千円、数万円単位でお金が動くニュースが飛び交う昨今。しかし、官報に刻まれた「銭」という単位は、日本のモノづくりの裾野を支える人々の実直な労働のリアルと、決して軽んじることのできない「1円の重み」を、私たちに静かに伝えてくれています。

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