2026年7月17日発行の官報(号外第160号)に、農林水産省の告示が並びました。第1003号から第1014号まで、12本が続けて掲載されています。
書かれている内容は、どれも同じ形式です。「次の品種登録を取り消したので、同条第五項の規定に基づき公示する」。取り消されたのは、デンドロビウム、シンビジウム、キク、カーネーション、バラ、モモ、パンコムギなどの品種でした。
そして12本すべてが、同じ条文を根拠にしています。種苗法第49条第1項第5号。登録料が納められなかったときの規定です。
品種の権利には、毎年の料金がかかる
新しい植物の品種を育成した人は、農林水産省に品種登録を出願できます。登録されると「育成者権」が発生し、その品種を業として利用する権利を専有できるようになります。存続期間は品種登録の日から25年、永年性植物では30年です。
ただ、この25年が自動的に転がっていくわけではありません。種苗法第45条第1項は、育成者権者に対し、存続期間の満了までの各年について、1件ごとに登録料を納めることを義務づけています。金額は「3万円を超えない範囲内で農林水産省令で定める額」とされ、種苗法施行規則第19条が具体的な額を決めています。
第1年から第9年までは、毎年4500円。第10年から第30年までは、毎年3万円。
納め方も規則に書かれています。品種登録料納付書に収入印紙を貼って納付する。植物の新品種という、いかにも現代的な知的財産が、収入印紙で維持されています。
納めなければ、取り消さなければならない
第2年以後の各年分の登録料は「前年以前に納付しなければならない」と定められています(第45条第6項)。期限を過ぎても、そこですぐ終わりではありません。第45条第7項が、期間の経過後6か月の追納期間を用意しています。ただし第8項により、追納する人は本来の登録料と同額の「割増登録料」を上乗せしなければなりません。実質、倍額です。
その6か月も過ぎると、第49条第1項第5号が働きます。条文はこう始まります。「農林水産大臣は、次に掲げる場合には、品種登録を取り消さなければならない」。取り消すことができる、ではありません。裁量の余地は書かれていません。
もう一つ、静かな規定があります。第49条第6項は、登録料の未納による取消しについて、行政手続法第3章の規定を適用しないと定めています。第3章は不利益処分の手続き、つまり聴聞や弁明の機会にあたる部分です。納めたか、納めなかったか。判断の材料がそれだけなので、言い分を聞く場は置かれていません。
取り消したときは、育成者権者への通知と公示が義務づけられています(第49条第5項)。今回の12本の告示は、その公示にあたります。
権利が消えた日は、公示の10か月あまり前
告示を読んでいて意外なのは、日付です。
たとえば第1003号。デンドロビウムの品種「スイートムーン」(育成者権者は株式会社山本デンドロビューム園)の登録年月日は、2013年(平成25年)9月4日。告示は、この育成者権が「令和七年九月五日に消滅したものとみなされる」と書いています。2025年9月5日です。公示された2026年7月17日から数えて、10か月あまり前になります。
これは手続きの遅れではなく、条文どおりの結果です。第49条第4項第3号は、登録料の未納による取消しの場合、育成者権は「第45条第6項に規定する期間が経過した時」に遡って消滅したものとみなす、と定めています。権利が切れるのは、納付期限が過ぎた瞬間。そこから6か月の追納期間が終わるまで取消しは確定せず、公示はさらにその後になります。
今回の12本が示す消滅日は、2025年9月5日から9月30日までの間に散らばっています。権利はもう10か月前に消えていて、消えていたことが世に知らされるのが今日、という順番です。
消えた品種の顔ぶれ
告示に並ぶ品種を、いくつか見てみます。
- 第1004号:シンビジウムの「グリーンオアシス」(育成者権者は株式会社向山蘭園)。登録年月日は2018年(平成30年)9月5日、消滅は2025年9月6日
- 第1007号:パンコムギの「ハナマンテン」(育成者権者は長野県)。登録年月日は2009年(平成21年)9月10日、消滅は2025年9月11日
キクやカーネーション、バラの欄には、オランダ、ドイツ、スペイン、イスラエル、アメリカの育成者の住所が続きます。品種の権利は国境を越えて登録され、国境を越えて更新されなくなっていきます。
なぜ納めなかったのかは、告示には書かれていません。ただ、存続期間は25年あり、その全期間にわたって売られ続ける品種ばかりではないはずです。世代交代した品種、生産をやめた品種の登録料を毎年払い続ける理由はありません。更新しないという判断は、必ずしも失敗を意味しません。
権利が消えても、品種は消えない
ここは誤解しやすいところです。取り消されたのは品種登録であって、品種そのものではありません。
育成者権は、登録品種を業として利用する権利を専有するものです(第20条第1項)。消滅すれば、その専有が解けます。つまりスイートムーンもグリーンオアシスもハナマンテンも、なくなったわけではなく、権利者の独占が外れた状態になります。
しかも名前は残ります。第22条第1項は、登録品種の種苗を業として譲渡する場合にはその登録品種の名称を使わなければならないと定めていますが、この条文のかっこ書きは「登録品種であった品種を含む」となっています。権利が消えた後も、その名前で呼ばれ続けることが、法律上の義務として残るのです。
12本の告示が記録しているのは、権利の終わりであって、花の終わりではありません。
【コラム】更新料で消える権利は、ほかにもある
権利を保つために料金を納め続ける仕組みは、育成者権に限りません。特許権や商標権も、決められた料金を期限までに納めなければ、権利は失われます。発明も、ブランドも、品種も、いったん認められた後は「持ち続けるかどうか」を毎年問われる財産です。権利は、生まれる瞬間より、手放される瞬間のほうがずっと静かです。
2026年7月17日 官報 号外第160号(農林水産省告示第1003号〜第1014号)
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