「モノより思い出。子どもたちが小さいうちに、たくさんの体験をさせてやりたいんです」
東京都台東区のマンションに暮らすKさん(47歳)は、都内企業で働くミドルマネジメント層。妻(45歳・パート)、中学2年生の長男、小学5年生の長女の4人家族です。世帯の手取り月収は約48万円。決して少なくない収入ですが、Kさん一家の家計は、もろくも崩れ去ろうとしていました。
順風満帆に見えた生活の裏側で、彼らをじわじわと追い詰めていたのは、皮肉なことに「家族の笑顔」のために繰り返された週末の出費でした。
「えきねっと」と「スマートEX」で消えていく生活費
Kさん一家の休日は、非常にアクティブです。週末になれば、公式デジタルチャネルの「えきねっと」や「スマートEX」を駆使し、スマートフォンひとつで特急や新幹線のチケットを手配。水戸への日帰り旅行、大阪や京都への遠出、さらには沖縄や石垣島へのフライトなど、小旅行を頻繁に楽しんでいました。直近でも東京ディズニーシーへの旅行の予定が入っており、家族のスマートフォンは笑顔の写真で溢れています。
「今の時代、知識よりも体験が重要です。子どもたちが広い世界を見るための投資ですから、ここはケチりたくない」
Kさんはそう語ります。確かに、旅行自体は素晴らしいことです。しかし、問題はその「頻度」と「管理の甘さ」にありました。夫婦ともに「教育や家族の思い出作りのための支出=良い支出」という思い込みがあり、レジャー費の予算上限を明確に設けていなかったのです。
交通費、宿泊費、現地での外食費、そしてお土産代。1回の旅行で数万円から十数万円が飛んでいきます。毎月の収入だけでは賄いきれず、ボーナスを切り崩すのが常態化していましたが、Kさんは「いざとなればボーナスで補填できる」と高をくくっていました。
巨大ロフトベッドの撤去で発覚した「見えない借金」
家計の歯車が完全に狂い始めたのは、長男が中学生になり、子ども部屋のレイアウトを大幅に変更することになったときでした。
エレベーターのない多層階のマンションから、かつて子どもたちが使っていた巨大なロフトベッドを撤去・解体しなければならなくなったのです。自力での搬出は不可能と判断し、複数の不用品回収業者を手配。解体、階段での搬出、運搬と、いくつもの工程を経る大規模なプロジェクトとなり、結果的にこのベッドの処分費用だけで10万円近い突発的な出費が発生しました。
「急な出費だけど仕方ない。生活防衛資金として貯めている定期預金から出しておいてくれ」
Kさんが妻にそう頼んだ日の夜。妻は青ざめた顔で、信じられない事実を口にしました。
「ごめんなさい……もう、貯金なんてないの。それどころか、クレジットカードの支払いが……」
妻が差し出したスマートフォンには、複数枚のクレジットカードの明細が映し出されていました。残高不足を補うため、いつの間にか「リボ払い」に手を出していたのです。総額は150万円に達していました。
京都への新幹線代も、ホテル代も、ディズニーリゾートでの豪華な食事も。そして今回の高額な不用品回収費用すらも。その多くが、年利15%という高い手数料を伴う借金によって賄われていたという事実に、Kさんは言葉を失いました。
FPが指摘する「高収入貧乏」のリアル
「Kさんのようなケースは、実は40代の中間層のご家庭で非常に多く見られます」
そう語るのは、家計相談を数多く請け負うファイナンシャルプランナーのA氏です。
「総務省の『家計調査』を見ても、子育て世帯における『教育費』と『教養・娯楽費』の割合は高い水準にあります。特に、手取り40万〜50万円台の世帯は『自分たちは平均より少し余裕がある』という意識から、生活水準を無意識に上げてしまう『ライフスタイル・クリープ』に陥りやすいのです」
A氏によれば、恐ろしいのは「良いことをしている」という免罪符です。
「高級時計や車の購入なら罪悪感が伴いますが、『子どものための旅行』や『家族での体験』にはそれがありません。そのため、家計が赤字になっていても『必要な投資だ』と自分を納得させてしまうのです。さらに昨今の物価高が食費や光熱費などの基礎支出を押し上げているため、以前と同じ感覚でレジャーを楽しんでいると、あっという間に家計はショートします」
これから長男は高校受験、長女も中学進学を控えています。教育費が本当のピークを迎えるのはこれからです。家族の思い出作りの代償として背負ったリボ払いの残債と、空っぽの貯金残高。Kさん夫婦は今、夫婦間の意思疎通をゼロからやり直し、血を吐くような家計の再建計画に向き合っています。
【コラム】「隠れ教育費」とレジャー費の境界線 「子どものため」という名目で膨らみがちなレジャー費ですが、家計管理においては「教育費」と「娯楽費」を明確に分けることが重要です。総務省の調査でも、教育・娯楽費の負担が家計を圧迫する実態が浮き彫りになっていますが、休日のテーマパークや度重なる新幹線旅行まで「教育の一環」として予算枠を広げてしまうと、歯止めが効かなくなります。 レジャー費は必ず「年間予算」として先取りで確保し、その範囲内でやりくりするルールを設けること。そして、遠出の旅行は「特別費」として毎月の家計とは別枠で積立を行うのが、リボ払い地獄に陥らないための鉄則です。
【リアル家計簿】都内マンション在住・Kさんの事例
【基本情報】
- 家族構成:夫47歳(会社員)、妻45歳(パート)、長男14歳(中2)、長女11歳(小5)
- 住居:都内マンション(分譲・エレベーターなし)
【月々の収入】
- 夫 給与(手取り):380,000円
- 妻 パート(手取り):80,000円
- 児童手当:20,000円
- 収入合計:480,000円
【月々の支出】
- 住宅ローン返済・管理費・修繕積立金:150,000円
- 食費(外食・旅行時の飲食含む):95,000円
- 水道・光熱費:25,000円
- 教育費(塾・習い事):65,000円
- 交通費・レジャー費(新幹線旅行・パークチケット代等):60,000円
- 通信費・サブスク(スマホ4台等):22,000円
- 日用品・雑費(不用品回収費用など):20,000円
- リボ払い返済(旅行代金等の立て替え):35,000円
- 生命保険:15,000円
- 夫 小遣い:40,000円
- 妻 小遣い:15,000円
- 支出合計:542,000円
【差引収支】
- 毎月の赤字:-62,000円(※ボーナスで補填・リボ残高増加中)
【金融資産残高】
- 普通預金(現金):約50,000円(※危険水域)
- 負債(リボ払い残高):約1,500,000円
- 家計の最大の問題点:体験重視の教育方針により週末のレジャー費(新幹線移動など)が常態化。さらにエレベーターなし物件からの大型家具(ロフトベッド)撤去など突発的な支出をリボ払いでしのいだ結果、借金が雪だるま式に膨らんでいる。

