食料品が5年で約29%値上がり 「同じものを買っているのに」月16,000円膨らんだ共働き4人家族の食費

食料品値上がりで月16,000円増えた共働き4人家族の食費 転落家族

※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。

小野彩(42歳)がスーパーのレジで財布を開くたびに、感じるようになった違和感がある。買い物カゴの中身は変わっていないのに、レシートの合計がじわじわ上がっている。

「今日も4,800円か」

週2回のまとめ買いを担当している彩は、帰りの車の中でレシートを眺めるのが癖になっていた。豚こま切れ肉、卵、牛乳、食パン、もやし、キャベツ、カレールウ。いつもと同じ定番の食材ばかり。なのに、1回あたりの金額が目に見えて増えている。

小野家は夫の拓也(44歳・メーカー営業職)と彩、中学2年の長男海斗、小学4年の長女美月の4人家族。拓也の手取りは月310,000円、彩のパート事務の手取りが月85,000円で、世帯の月収は395,000円。郊外の持ちマンションに暮らし、車は1台。多くはないが、堅実にやりくりしてきた自負があった。

レシートの束が語る5年間の変化

きっかけは、彩が家計簿アプリの「食費」グラフを半年分まとめて見たことだった。

2026年に入ってからの月平均は73,000円。彩は一瞬、入力ミスを疑った。2020年ごろ、同じアプリに記録していた食費は月57,000円前後だったからだ。

子どもたちは当時より大きくなった。海斗は部活帰りにごはんを2杯おかわりするし、美月も給食だけでは足りない日がある。食べる量が増えた分はあるだろう。それにしても、月16,000円の差は大きかった。

「ねえ、最近スーパーの値段、上がってない?」

夕食後、拓也にそう切り出した。食器を洗いながら拓也が振り向く。

「言われてみれば、コンビニのコーヒーも前より高くなった気がするな。でも月1万6千円も増えてるのか」

「うん。アプリで見たらそうなってた。量を増やしてるつもりはないんだけど」

彩は言葉を続けた。チョコレートの値段がいつの間にか変わっていたこと。以前は1枚150円台だった板チョコが200円を超えていること。子どもたちのおやつ代だけで、月に1,000円以上増えた感覚があること。

拓也は黙って聞いていた。

消費者物価指数が映す「食のインフレ」

彩が感じている違和感は、統計にもはっきり表れている。

総務省の消費者物価指数(2026年5月分)によると、食料全体の指数は128.7(2020年=100)。2020年を基準にすると、食料品の価格は5年あまりの間に約29%上昇した計算になる。

年ごとの動きを見ると、上昇は段階的に進んでいる。2022年に104.5だった指数は2023年に112.9へ跳ね上がり、2024年は117.8、2025年には125.8に達した。食品の値上げラッシュが連続して押し寄せた結果、価格水準は5年前とはまったく別の景色になった。

個別品目で見ると、上昇の大きさがさらに際立つ。2026年5月時点の前年同月比で、コーヒー豆は37.9%上昇、チョコレートは25.8%上昇。菓子類全体でも8.1%、飲料は8.7%上がっている。弁当は11.4%、生鮮魚介は7.5%の上昇だった。

彩が感じた「同じものを買っているのに高くなっている」という実感は、正確に物価の動きと一致していた。

「削れるところがもうない」

家計全体を見ると、小野家の状況はこうなっている。

リアル家計簿:小野家(夫44歳・妻42歳・子2人)

収入

  • 夫の手取り(メーカー営業職):310,000円
  • 妻のパート手取り(事務・週4日):85,000円
  • 収入合計:395,000円

固定費

  • 住宅ローン(変動金利・3LDKマンション):92,000円
  • 管理費・修繕積立金:28,000円
  • 通信費(スマホ3台・Wi-Fi):12,000円
  • 車1台(ローン完済・任意保険・駐車場):18,000円
  • 夫の生命保険・医療保険:8,000円
  • 妻の医療保険:3,000円
  • 長男の学習塾(週2回・数学英語):25,000円
  • 固定費小計:186,000円

変動費

  • 食費(外食含む):73,000円
  • 日用品:8,000円
  • 電気・ガス:16,000円
  • 水道:5,000円
  • ガソリン:10,000円
  • 子どもの衣服・学用品:8,000円
  • 夫婦小遣い(夫20,000円・妻10,000円):30,000円
  • 変動費小計:150,000円

特別費(年間支出の月割り)

  • 自動車税・車検・タイヤ交換(年間約100,000円の月割り):8,000円
  • 固定資産税(年間約120,000円の月割り):10,000円
  • 帰省・家族旅行(年間約120,000円の月割り):10,000円
  • 冠婚葬祭・家電買い替え(年間約60,000円の月割り):5,000円
  • 特別費小計:33,000円

貯蓄

  • 教育資金積立:15,000円
  • 一般貯蓄:5,000円
  • 貯蓄合計:20,000円

支出合計:389,000円

収支:+6,000円

収支は月6,000円のプラス。一見すると黒字だが、月次ではギリギリの状態にある。特別費まで含めると余裕はほとんどない。車の故障や家電の買い替えが重なれば、この6,000円は簡単に消える。

「食費を60,000円に戻せたら、月13,000円浮くんだよね」

彩はそう言って、自分でもため息が出た。わかってはいる。だが、同じものを同じ量だけ買って73,000円なのだ。節約するなら、何かを減らすか、何かをやめるしかない。

おやつの値段と子どもの笑顔

彩がまず減らしたのは、自分のコーヒーだった。毎朝ドリップしていた豆を、週の半分はインスタントに切り替えた。コーヒー豆の価格は前年比で37.9%上がっている。200gで800円だった豆が、今は1,000円を超えていた。

次に目をつけたのは、子どもたちのおやつ。美月が好きなチョコレート菓子は、以前なら2袋で300円台だったものが500円近くになっている。前年比25.8%の上昇と聞けば、数字としては納得がいく。だが、帰宅した美月が「今日のおやつなに?」と聞いてくる笑顔を思い浮かべると、おやつを減らすとは言いにくかった。

「お菓子は、うちで作ったらどう?」

ある日、彩は思いついたように美月に言った。休日にホットケーキやクッキーを一緒に焼けば、材料費は市販のお菓子を買うより安くなる。美月は「やりたい」と目を輝かせたが、彩の本音は節約だった。そのことは言わなかった。

海斗は最近、弁当のおかずが少し減ったことに気づいていた。

「今日の弁当、なんか卵焼きしかなくない?」

「ちゃんとウインナーも入ってたでしょ。あとブロッコリー」

彩は笑って返したが、以前なら入れていた冷凍の唐揚げが1袋500円を超えるようになり、使う頻度を減らしていたのは事実だった。

年間192,000円の「見えない増税」

食費が月16,000円増えたということは、年間で192,000円の負担増になる。家族旅行1回分、あるいは長男の塾代の8か月分に相当する金額だ。

拓也の給料も多少は上がっている。2020年に比べれば手取りは月15,000円ほど増えた。だが、食費の上昇だけでその大半が帳消しになっている。電気代やガソリン代、日用品の値上がりまで含めれば、生活の実感としては「むしろ苦しくなった」というのが正直なところだった。

「来年、海斗が受験でしょ。塾の時間を増やしたいって言ってるんだけど」

彩がそう切り出したのは、週末の夕食後だった。拓也は「増やすといくら?」と静かに聞いた。

「週3回に増やすと、月35,000円。今より10,000円増える」

ふたりは黙った。月6,000円の黒字が、来年にはマイナスに転じる計算になる。ボーナスで補填できなくはないが、それは教育資金の積立に回すはずのお金だった。

「食費を絞るしかないのかな」

拓也が言った。彩は小さくうなずいたが、心の中では「これ以上、どこを」と思っていた。

まとめ

小野家の食費は、2020年の月57,000円から2026年には月73,000円へ、約16,000円増えた。年間にして192,000円。品目を見ればチョコレートが25.8%、コーヒー豆が37.9%、菓子類が8.1%、弁当が11.4%上がっている(いずれも前年同月比、2026年5月時点)。食料全体では2020年比で約29%の上昇だ。

物価の上昇は「誰にでも等しく降りかかる、見えない増税」とも言われる。小野家の場合、食費の増加分だけで昇給のほとんどが吸収された。食卓に並ぶ料理の種類を工夫し、おやつを手作りに切り替え、自分のコーヒーを我慢する。静かな努力で家計を守っている彩のような人は、おそらく少なくない。

消費者物価指数(CPI)全国 2026年5月分(総務省統計局)

※本連載はフィクションです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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