※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。
東京都内の賃貸マンションに暮らす、会社員の夫(43)とパート勤務の妻(40)、中学1年と小学4年の子どもがいる4人家族。世帯の手取り月収はおよそ39万円で、決して余裕はないものの、教育資金づくりのためにつみたてNISAと学資保険を並行して続けてきました。そのペースが崩れたのは、2026年の春でした。原因は、電気代の請求書に静かに積み重なっていた「3つの値上げ要因」です。
気づけば「電気代だけ」で月4,000円増えていた
きっかけは、2026年5月に届いた電気料金の請求書でした。使用量はいつもとほとんど変わらないのに、支払額だけが目に見えて増えていたのです。
これは、この家庭だけの特殊な事情ではありません。総務省の家計調査によると、2025年(令和7年)の2人以上世帯における電気代は月平均13,219円で、前年に比べて名目10.1%、物価変動を除いた実質でも4.6%の増加となっています。光熱・水道費全体でも実質2.5%の増加で、「電気代」「ガス代」が主な押し上げ要因になったと分析されています。つまり、値上げはこの家庭が請求書を開く前から、すでに全国的に進んでいた構造的な変化だったということです。
この家庭の場合、電気使用量が月400kWh前後の一般的な世帯モデルに近く、2026年4月以降、月あたり4,000円前後の負担増に直面することになりました。
「支援が切れる3か月」に、賦課金が過去最高を更新した
負担増の背景には、タイミングの悪い重なりがありました。
政府は2026年1月使用分から3月使用分まで、電気・都市ガス料金への支援を実施していました。電力会社が公表している適用時期を見ると、この支援は2026年3月使用分(4月検針分)をもって区切りとなっており、4月使用分以降の支援は、この時点では示されていません。つまり、この家庭にとっては、2026年4月から6月にかけての3か月間、値引きのない「素の料金」で電気代を払うことになったのです。
さらに悪いことに、ちょうどこのタイミングで、電気代を押し上げるもう一つの要因が重なりました。経済産業省は2026年3月19日、2026年度の再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の単価を1kWhあたり4.18円にすると発表しました。前年度の3.98円から引き上げられ、制度開始以来の最高値です。月400kWhを使う一般的な世帯であれば、賦課金だけで月額1,672円、年額にして20,064円の負担になる計算です。この新単価は2026年5月検針分の電気料金から適用されています。
「値引きが消える」タイミングと、「新たな負担が積み上がる」タイミングがほぼ同時に来たことで、この家庭の電気代は、体感としては一気に跳ね上がったように感じられました。しかし実際には、補助金の終了と賦課金の制度的な上昇という、あらかじめ決まっていた2つの要因が重なっただけだったのです。
積み立てを止めたのは、「電気代」だけが理由ではなかった
電気代の値上がりそのものは、月あたり数千円の話です。それでも、この家庭にとって重かったのは、同じ時期に食費や日用品の値段も上がり続けていたことでした。
総務省の家計調査では、2025年の2人以上世帯における食料費は月平均94,895円で、前年から名目5.5%の増加となっています。教育費についても、実質6.8%の増加が報告されています。つまり、この家庭が直面していたのは「電気代だけの問題」ではなく、複数の生活コストが同時に、じわじわと積み上がっていく状況でした。
この家庭では、電気代の値上がり分をどこかで吸収する必要に迫られ、最終的につみたてNISAの積立額を減額し、学資保険の増額プランへの切り替えを見送るという判断をしました。教育資金づくりのペースが、当初の計画から後ろ倒しになったかたちです。
【コラム】節電しても、なぜ安くならないのか
「使う量を減らせば安くなるはず」と考えて、この家庭でも夏場のエアコン設定温度を1度上げるなどの対策を試みました。ですが、再エネ賦課金は電気の使用量に比例して全国一律の単価で課される仕組みのため、契約する電力会社を変えても、太陽光発電を利用していない家庭である限り、この負担そのものから逃れることは基本的にできません。節電で減らせるのは電力量料金の部分だけであり、賦課金や基本料金の値上がり分は、使用量をどれだけ絞っても、構造的にゼロにはならないのです。「頑張って節電しているのに、なぜ請求額が思ったほど下がらないのか」という感覚の正体は、ここにありました。
リアル家計簿(月あたり・円)
【値上げ前:2026年3月まで】
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 収入 | 夫の給与手取り | 280,000 |
| 収入 | 妻のパート収入 | 110,000 |
| 収入合計 | 390,000 | |
| 固定費 | 住居費(家賃) | 118,000 |
| 固定費 | 保険料 | 15,000 |
| 固定費 | 通信費 | 13,500 |
| 固定費 | 学校関連費(給食・教材等) | 22,000 |
| 固定費小計 | 168,500 | |
| 変動費 | 食費 | 80,000 |
| 変動費 | 電気代 | 13,200 |
| 変動費 | ガス代 | 5,800 |
| 変動費 | 水道代 | 4,900 |
| 変動費 | 日用品 | 11,000 |
| 変動費 | 交通費 | 8,500 |
| 変動費 | 塾・習い事 | 18,000 |
| 変動費小計 | 141,400 | |
| 貯蓄 | つみたてNISA | 25,000 |
| 貯蓄 | 学資保険 | 15,000 |
| 貯蓄小計 | 40,000 | |
| 支出合計 | 349,900 | |
| 収支差 | +40,100 |
【値上げ後:2026年4〜6月】
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 収入 | 夫の給与手取り | 280,000 |
| 収入 | 妻のパート収入 | 110,000 |
| 収入合計 | 390,000 | |
| 固定費 | 住居費(家賃) | 118,000 |
| 固定費 | 保険料 | 15,000 |
| 固定費 | 通信費 | 13,500 |
| 固定費 | 学校関連費(給食・教材等) | 22,000 |
| 固定費小計 | 168,500 | |
| 変動費 | 食費 | 84,000(+4,000) |
| 変動費 | 電気代 | 17,300(+4,100) |
| 変動費 | ガス代 | 5,800 |
| 変動費 | 水道代 | 4,900 |
| 変動費 | 日用品 | 11,500(+500) |
| 変動費 | 交通費 | 8,500 |
| 変動費 | 塾・習い事 | 18,000 |
| 変動費小計 | 150,000 | |
| 貯蓄 | つみたてNISA(減額) | 15,000(▲10,000) |
| 貯蓄 | 学資保険(増額プラン見送り) | 15,000(据え置き) |
| 貯蓄小計 | 30,000 | |
| 支出合計 | 348,500 | |
| 収支差 | +41,500 |
見た目の収支差はほぼ変わっていません。しかし中身を見ると、値上がり分を吸収するために、つみたてNISAの積立額を月1万円減らして帳尻を合わせているのがわかります。数字の上では「破綻」していなくても、教育資金づくりの計画そのものは、確実に後ろ倒しになっていました。
経済産業省「再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2026年度以降の買取価格等と2026年度の賦課金単価を設定します」(2026年3月19日)
総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
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