なぜ今、宇宙ロケットの打ち上げ費用はこんなに安くなったのか。スイスの研究者たちは、この変化に「イノベイティゼーション」という新しい名前をつけた。アポロ計画の時代とスペースX以降の時代を分ける、宇宙産業のいちばん根っこにある論理の変化を指す言葉だ。
WORLD WORD FILE
Innovatisation(イノベイティゼーション)
| ひとこと定義 | 産業が「技術的威信」重視から「顧客とコスト」重視の論理に移る構造変化 |
| 生まれた場所 | スイス・ザンクトガレン大学/EPFL(ローザンヌ) |
| 初出 | 2024年10月(ワーキングペーパー)、2026年にNBER研究論文集へ収録 |
きっかけ:いま話題になっている理由
2026年6月1日、アメリカの経済学研究機関NBER(全米経済研究所)が、スイスのザンクトガレン大学とEPFL(ローザンヌ連邦工科大学)の研究者3人による論文「Defining Innovatisation: The Case of NewSpace and the Changing Space Sector」をワーキングペーパーとして公開した。この論文は、NBERが毎年発行する「Entrepreneurship and Innovation Policy and the Economy」という研究論文集の2026年版への収録も決まっている。
論文の著者の一人、ドミニク・フォレイ氏は2026年4月16日、ボストン大学の技術政策研究イニシアティブの研究会でもこの内容を発表した。まだニュースとして広く報じられている段階ではなく、研究者の間で共有され始めたばかりの言葉だ。
本来の定義:どこから来た言葉か
イノベイティゼーションは、ある産業が2つの異なる「モード」の間を移行する現象を説明するために作られた言葉だ。論文はこの2つを次のように区別している。
- 技術的達成(TA)モード:技術的な性能だけが評価基準になる。顧客が何を求めているか、コストがいくらかかるかは問題にならない。目的は威信そのもの
- イノベーション・モード:顧客の好み、商業的な機会、コストが不可欠な要素になる
論文は、アポロ計画の経済構造(実質的に国が唯一の買い手となる「独占的買い手・寡占市場」)と、1980年代に何度か試みられては失敗した宇宙商業化の動きを分析し、宇宙産業が長らくTAモードの論理に支配されてきたことを示している。編集部で訳すなら「威信経済モード」から「商い経済モード」へ、といったところだろうか。
なぜ今、広がっているのか
論文は、近年の打ち上げコストなどの定量データを示しながら、宇宙産業がイノベーション・モードへと移行しつつあると論じている。その背景として、経済学者ベンジャミン・ジョーンズの研究(2022年)や「破壊的イノベーション」理論を土台に、複数の要因を挙げている。
供給側の要因としては、新しい技術的な可能性が広がったこと、新しい製品・サービスを生み出す固定費が下がったこと、生産・流通・規模拡大にかかるコストが下がったことがある。需要側の要因としては、市場規模の拡大や商機の出現が挙げられている。スペースXのような民間企業が、国家の威信ではなく顧客・コスト志向で宇宙ビジネスを組み立てていることが、この移行を象徴する事例として扱われている。
論点:見方は分かれている
この移行をどう評価するかについては、立場が分かれる。
フランスの研究交流団体RRI(Réseau de Recherche sur l’Innovation)に寄稿した論者は、イノベイティゼーションを「不可避かつ必要な変化」と位置づけ、コスト低下がむしろアポロ的な大型探査ミッションを可能にすると論じている。一方で同じ寄稿は、この現象がイーロン・マスク氏という特定の起業家のイメージと結びつきやすいために、感情的な評価に流されて冷静な分析ができなくなる危うさも指摘している。
また、「威信」から「商い」への移行を手放しで歓迎しない立場もありうる。国家が費用を度外視して進めてきた大型探査・有人ミッションが、顧客志向・コスト志向の論理のもとで後回しにされるのではないか、という懸念だ。論文自体はどちらの立場にも立たず、あくまで現象を分析する枠組みとして「イノベイティゼーション」を提示している。
日本への示唆
日本の宇宙産業も、JAXAという国主導の「技術的達成」の系譜と、インターステラテクノロジズやispaceといった民間企業による商業志向の動きが同時に存在している。イノベイティゼーションという物差しを当ててみると、日本の宇宙産業が今どちらのモードに近いのか、あるいは両方が併存しているのかを考える手がかりになりそうだ。対岸の話に見えて、実は日本の宇宙政策の立ち位置を測る補助線にもなる言葉かもしれない。
Defining Innovatisation: The Case of NewSpace and the Changing Space Sector(NBER Working Paper 35254)
Defining innovatisation(ザンクトガレン大学CFAC ワーキングペーパー原文)
Technology & Policy Research Initiative 2024–2025 Seminar Series(ボストン大学・発表記録)
※本記事はAIを活用して作成し、編集部が公的機関の発表などの一次情報にもとづいて事実確認を行っています。詳しくは編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


