AI時代 2045年の仕事内容「漁師」編――魚群探しは消えても、海を読む目は消えない

AI時代 2045年の仕事内容 漁師編 魚群探しは消えても海を読む目は消えない 読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

駅前の雑居ビルの2階にある仕事案内所に、制服姿の女子高生が一人でやってきた。佐々木葵(18歳)。漁港のある町から、学校帰りに電車を乗り継いで来たという。相談ブースの椅子に腰かけると、リュックから進路調査票のコピーを取り出し、テーブルの上にそっと置いた。「継がない」の欄に丸がついている。

「父が漁師なんです。もう何十年も、地元の港で」

葵は、それ以上言葉を継がなかった。ミチルさんは調査票を一瞥し、急かさずに「お茶、飲みます?」と聞いた。葵がうなずくのを待ってから、湯呑みを二つ用意する。しばらく無言の時間が流れたあと、葵がぽつりと続けた。

「継がないって書いたんですけど、それで本当にいいのか、自分でもよく分からなくて。わざわざ電車に乗ってここまで来たのは、たぶん、誰かに聞いてほしかったからだと思います」

AI代替率

ミチルさんは湯呑みを置き、いつもの調子で切り出した。

「この仕事、正直に言いますね」

AI代替率

(編集部予測)

22%

「漁師さんの仕事は、AIにとって意外と苦手な仕事が多いんです。魚のいる場所を探すところや、魚の値段を決めるところは助けてもらえます。でも、船を操って、網を上げて、魚を仕分ける手そのものは、まだ人間の仕事として残っています」

2026年、この仕事の現在地

沿岸漁業従事者は、日本の漁師の大部分を占める(全国66,470人・2020年国勢調査)。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、2026年時点の平均年収は360.8万円、平均年齢は49.1歳、月間労働時間は167時間となっている。就業形態は自営・フリーランスが63.9%を占め、企業に雇われる正規職員は25%にとどまる。

有効求人倍率は1.43倍(2024年度)で、求人はあるが担い手が追いついていない状態が続く。仕事は早朝、時には午前2時や3時の出港から始まる。漁場に着くまでに船上で準備を終え、到着と同時に網おろし・漁獲物の仕分けに取りかかる。魚の仕分けは市場価格に直結するため、慎重さと速さの両方が求められる。

「継がない」の背景には、この早朝からの重労働と、天候に左右される不安定な収入がある。葵の父親のような沿岸漁業の経営者数は、近年減少が続いている。

2045年、何がこの仕事を変えたか

2045年、漁の前に必要だった経験と勘の一部を、AIが肩代わりするようになった。人工衛星とブイに設置されたセンサーが、海水温・潮の流れ・魚群の動きをリアルタイムで送り続け、出漁するかどうかの判断を後押しする。かつては熟練の漁師だけが感じ取れた「今日は行ける日か」の見極めに、データという裏付けが加わった格好だ。

港に戻ったあとも変化は大きい。かつては市場でのセリを介して値段が決まっていたが、需要予測AIが天候・漁獲量・消費動向を組み合わせて適正価格を算出し、漁師自身が消費者へ直接販売するルートが一般化した。SNSと連動した直販の仕組みを使いこなす若い漁師の中には、市場を介さずに全国へ魚を届ける人も珍しくない。

一方で、小型船の自動操船支援は、外洋の直線航路では実用化が進んだものの、岩礁や浅瀬が入り組む沿岸部では、最後の舵取りを人間に委ねる場面がほとんど残っている。魚種や漁法によって仕分けの基準が毎回変わる作業も、機械には任せきれない。

ある一日

港の朝は暗いうちから動き出す。三浦洋平(38歳)は、午前3時に目を覚まし、タブレットで海況予測を確認する。潮の流れと風向きのデータを見て、今日の漁場を決める。祖父の代からの船を出港させると、あとは長年の経験がものを言う仕事だ。

網を仕掛け、引き上げ、魚を仕分ける。カニが混じった網からタコを外すのも、傷んだ魚を見分けて弾くのも、三浦の目と手の仕事だ。帰港後は、その日の水揚げをスマートフォンで撮影し、直販サイトに投稿する。「今朝獲れました」の一言に、常連の注文がすぐに入る。

三浦は数年前、市場に卸すだけの働き方から、直販へと軸足を移した。天候不順で漁に出られない日もあるが、それでも去年より収入は安定してきたと感じている。

消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替市場でのセリによる価格決定、漁獲枠・資源管理の算出
AIと協働出漁判断のための気象・海況予測、直販の価格設定・需要予測
人間に残る操船(特に沿岸・浅瀬)、網おろし・漁獲物の仕分け、漁船・漁具の点検修理

それでも人間がやる価値

魚を獲ることは、データだけでは完結しない。網に何がかかっているかは、上げてみるまで分からない。傷んだ一匹を見分ける目、その日の海の機嫌を肌で感じる勘は、経験を積んだ人間にしか宿らない。三浦のような漁師たちは、AIが示す予測を参考にしながらも、最後の判断は自分の目で下している。

2045年の年収

2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • AI・ロボットを「使う側」に回った層(需要予測AIと直販を使いこなし、自分のブランドで売る漁師):800万円〜(上限なし)
  • 従来型の市場出荷が中心の層:400万円前後
  • 参考・2026年の平均:360.8万円(job tag「沿岸漁業従事者」・賃金構造基本統計調査)

漁師の仕事は、少子高齢化と担い手不足という下向きの力が、逆に若い世代の参入を後押しする構造になっている。市場を介さない直販という新しい稼ぎ方を身につけた層は、従来の平均を大きく上回る収入を得られるようになった。

この仕事を目指すきみへ

ミチルさんは、湯呑みを両手で包みながら言った。

「継ぐか継がないか、今すぐ決めなくてもいいと思います。ただ、海の仕事は、経験がものを言う世界です。今のうちに、お父さんの船に一度でも乗ってみてください。データが読めることと、海が読めることは、別の力ですから」

葵は小さくうなずいた。

「わたしも昔、朝がとても早い仕事をしていたことがあります。毎日、天気に振り回されながら」

一言だけそう付け加えると、ミチルさんはそれきり自分のことは語らず、進路調査票へと視線を戻した。

【コラム】海女という生き方

沿岸漁業の担い手のほとんどは男性だが、海女(あま)と呼ばれる女性たちの漁も各地に残っている。素潜りでアワビや海藻を獲る伝統的な漁法で、道具に頼らない分、経験と身体感覚がすべてを左右する。AIによる海況予測が進んでも、水中に潜って一つひとつ手で獲る作業そのものは、これからも変わらないと見られている。

まとめ

漁師の仕事は、AIによって出漁判断や値決めが助けられる一方、船を操り、網を上げ、魚を仕分ける核心部分は人間の手に残り続ける。AI代替率(編集部予測):22%。魚群探しは消えても、海を読む目は消えない仕事として、2045年も港の朝に息づいている。

リファレンス

沿岸漁業従事者-職業詳細|職業情報提供サイト(job tag)

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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