※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。
2045年、仕事案内所。放課後の時間帯になると、学生服姿の相談者が増える。今日訪れたのは、高校2年生の佐藤蒼(あおい・仮名)だった。
母親に「先生になりたいなら、一度、案内所で話を聞いておいで」と言われて来たという。カウンターの前に座ると、蒼は少し早口で切り出した。
「小学校の先生になりたいんです。でも、この前、教育実習の見学に行ったら、先生がAIに丸つけをしてもらっていて。宿題の採点も、連絡帳の下書きも、AIがやってるって聞いて……。自分が先生になる頃には、仕事、なくなってるんじゃないかって」
ミチルさんは蒼の顔をしばらく見てから、いつもの調子で言った。
「この仕事、正直に言いますね」
AI代替率
(編集部予測)
30%
「採点や出欠の記録、保護者へのお知らせ文書。こういう定型の仕事は、もうAIがだいぶ引き受けています。でも、子どもと直接向き合う仕事そのものは、あまり減っていません」
2026年、この仕事の現在地
現在、小学校教員として働く人は全国に42万1,160人います(令和2年国勢調査)。平均年齢は42.2歳、平均年収は735万2,000円です(令和7年賃金構造基本統計調査)。
小学校の98.3%は公立で、就業者のうち女性の割合は62.7%にのぼります(文部科学省「学校基本調査」令和7年)。原則として土日祝日は休みですが、授業のない長期休み中も研修が入ることが多く、勤務時間外の仕事も少なくない職業です。
近年は、定年退職者の増加と受験者数の減少により、採用試験の競争倍率が下がる傾向にあります。有効求人倍率は2.14倍(令和6年度)で、担い手を必要とする状態が続いています。
2045年、何がこの仕事を変えたか
2045年の教室では、汎用のAIエージェントが学級担任の事務作業の多くを引き受けています。テストの採点、出欠の集計、保護者向けの連絡文書の下書き――こうした定型業務は、ほぼ自動化されました。
授業の準備そのものも変わりました。AIが一人ひとりの理解度に合わせた練習問題を用意し、つまずいている単元を教員に知らせてくれます。ただし、医療や法務の現場と同じように、学校でもAIが作った指導計画や生活記録の案を、そのまま使うことはありません。最終的にどう子どもに接するかを決めるのは、いまも人間の教員です。
授業動画やお便りの音声版をAIがその場で作れるようになったことで、家庭学習の教材はぐっと豊かになりました。それでも、AIが用意した教材だけで子どもが育つわけではない、というのがこの時代の共通認識です。
ある一日
森田先生(30代)は、朝、教室に入るとまずAIが夜のうちにまとめた「昨日のクラスの様子」に目を通す。誰が忘れ物をしたか、誰の発言が減っていたか。数字とグラフで示された情報を見ながら、森田先生は一人の児童の名前に指を止めた。
「今日、ちょっと様子を見てみよう」
1時間目の算数。AIが用意した個別の練習問題を子どもたちが解いている間、森田先生は教室を歩き、気になっていた子の隣にしゃがみ込む。「わかるところまででいいよ」。声をかけると、その子はようやく鉛筆を持ち直した。
昼休み、AIがまとめた保護者への連絡文書の下書きに目を通し、言葉を一つ二つ直してから送信する。文面はほとんど直す必要がないが、森田先生は毎回、必ず自分の目で確認してから送ることにしている。
放課後、職員室で同僚と、午前中に気になった子の話をする。データには表れない「なんとなく元気がなかった」という感覚を、人と人とで確かめ合う時間だ。
消えた業務・残った業務
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| AIに代替 | テスト採点、出欠集計、連絡文書の下書き作成、練習問題の個別カスタマイズ |
| AIと協働 | 授業計画のたたき台作成、教材動画の生成、学習データの分析 |
| 人間に残る | 児童との対話・信頼関係づくり、生活指導、保護者との深い相談、いじめ・不登校への対応、行事の運営 |
それでも人間がやる価値
小学校教員という仕事の核心は、「その日、その子の小さな変化に気づくこと」にあります。
昨日と今日で表情が違う。声のトーンがいつもと少し違う。AIは大量のデータから傾向を読み取ることはできますが、目の前の子どもの「なんとなく」を感じ取り、声をかけるかどうかを決めるのは、いまも人間にしかできない仕事です。
子どもにとって、先生は「正解を教えてくれる存在」である以上に、「自分を見てくれている存在」です。この関係だけは、2045年になっても代わりが利きません。
2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)
- AI協働・特別支援やICT指導など専門性を高めた層:820万円前後
- 定型的な授業・学級運営が中心で、人手不足のため代替が進みにくい層:700万円前後
- 参考・2026年の平均:735万2,000円(賃金構造基本統計調査)
小学校教員は、少子化で需要が縮む職業に見えて、実際には採用倍率の低下が示すとおり担い手不足が進んでいます。トラック運転手編と同じ「下支え型フレーム」で、代替される側の年収も現在の水準を大きく下回りにくい構造になると編集部は予測しています。
この仕事を目指すきみへ
ミチルさんは、蒼の相談を聞きながら、ふと小さな声で言った。
「私も昔、人に何かを教える立場にいたことがあります」
それだけ言うと、話を本題に戻した。
「今のうちに積んでおくといいのは、勉強を教える練習より、誰かの話を最後まで聞く練習です。年下の子と関わる機会があれば、できるだけ関わってみてください。AIがどれだけ賢くなっても、『あなたのことをちゃんと見ています』という一言は、人にしか渡せませんから」
蒼は少し肩の力が抜けた顔で、「やってみます」と答えた。
【コラム】なぜ日本の小学校は「学級担任制」なのか
多くの国では教科ごとに専門の教員が代わる仕組みが一般的ですが、日本の小学校は一人の担任が大半の教科を教える「学級担任制」を長く続けてきました。これは、子どもの生活全体を一人の大人が継続して把握し、学習面だけでなく生活習慣や人間関係の変化にも気づきやすくするための仕組みだとされています。2045年、AIが教科ごとの指導を細かく最適化できるようになっても、この担任制の骨格自体は大きく変わっていません。
小学校教員の仕事は、採点や事務作業といった「量」の部分から少しずつAIに置き換わっていく一方で、子どもと向き合う「質」の部分は、これからも人の手に残り続けそうです。
リファレンス
※就業者数・平均年収・平均年齢・有効求人倍率・女性就業者割合・公立学校割合は、上記job tagページに掲載の政府統計(令和2年国勢調査、令和7年賃金構造基本統計調査、令和6年度ハローワーク求人統計データ、文部科学省「学校基本調査」令和7年)にもとづきます。
※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


