AI時代 2045年の仕事内容「電気工事士」編――図面はAIが引いても、つなぐ手は消えない

AI時代 2045年の仕事内容「電気工事士」編アイキャッチ 読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

仕事案内所のドアを開けたのは、神谷美咲だった。33歳。きちんとしたジャケットを着ているが、どこか落ち着かない様子で、名刺入れをコートのポケットにしまい込んでいる。

「あの、転職の相談で……」

ミチルさんはお茶を出しながら、椅子を勧めた。「まずは温かいうちにどうぞ。今日は、どんなお仕事を考えていらっしゃるんですか?」

神谷は湯呑みを両手で包み込み、少し間を置いてから口を開いた。「先月、退職しました。IT企業の総務にいたんですけど、契約書の確認も、経費精算のチェックも、会議室の調整も、ほとんどAIに任せられるようになって。人員整理の対象になりました」

「それで、次は?」

「電気工事士を目指そうかと思っていて。でも、正直、自分でも変な選択だと思うんです。手先が器用なわけでもないし、力もないし。それに、そのうちロボットが配線もやるようになるんじゃないかって、不安で」

ミチルさんは湯呑みを置いた。「この仕事、正直に言いますね」

AI代替率

(編集部予測)

32%

「見積書を作る、仕様書を書く、試験の成績書をまとめる。こういう書類仕事は、もうかなりAIに置き換わっています。でも、現場で電線をつなぐ手そのものは、AIにもロボットにも渡っていません。理由は単純で、この仕事は法律で『人にしかやらせてはいけない』と決まっているからです」

2026年、電気工事士の仕事の現在地

電気工事士は、変電設備の据え付けから、建物内の幹線・分電盤・コンセント・照明の配線、放送通信設備やインターホンの工事まで、電気を利用するための設備をつくる職業だ。厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)」によると、全国の就業者数は約38万人(令和2年国勢調査)。令和7年賃金構造基本統計調査では平均年収628.1万円、平均年齢41.6歳、月間労働時間163時間となっている。

もっとも目を引くのは有効求人倍率だ。令和6年度で3.8倍。求職者1人に対して、求人が3.8件ある計算になる。就業形態は正規雇用が78.0%を占めつつ、自営・フリーランス(一人親方)が19.5%と、独立して働く選択肢も一定の厚みがある。

資格制度も特徴的だ。電気工事士法は、電気工事士でなければ一般用電気工作物・自家用電気工作物の工事に従事してはならないと定めている(第3条)。無資格での工事には懲役・罰金の罰則があり、感電や火災という命に関わるリスクを扱うがゆえに、資格保有者以外の作業を法律で禁じている。

2045年、何がこの仕事を変えたか

2045年、見積書・仕様書のたたき台づくりや、施工図面のデータ化、試験成績書の取りまとめは、汎用エージェントAIが標準で担うようになった。現場ではAR(拡張現実)グラスが配線経路をその場に重ねて表示し、点検作業も画像認識による異常予兆の一次スクリーニングが支援する。

一方で、工場でつくられる規格化されたユニットの組み立てには作業ロボットが入り込んだものの、既存の建物の改修・リフォーム現場は、そもそも図面と実際の壁の中身が食い違っていることが珍しくない。天井裏の配線がどう這っているかは、建物ごと、部屋ごとに違う。この「非定型な環境での細かい手技」は、フィジカルAIが最後まで苦手とする領域として残った。

さらに、EV(電気自動車)用の充電設備、データセンターの電源設備、太陽光・蓄電池を組み合わせた住宅の再エネ設備など、電気を新しく引く仕事そのものが2020年代から増え続けた。AIが電力を大量に消費する時代になったことで、皮肉にも「AIのための電気を引く」人間の仕事が増えるという構図が生まれている。

ある一日——一人親方・増田哲也の仕事

朝6時、増田哲也(52歳)は軽トラックに工具箱を積み込む。20代で電気工事会社に入り、15年前に独立して一人親方になった。今日の現場は、築40年のオフィスビルに新しくEV充電器を増設する工事だ。

現場に着くと、まずタブレットで施工図面を開く。図面自体はAIが過去の配線データと今日の現場写真から自動で下書きしたものだが、増田はその図面を持って実際の分電盤の裏側を覗き込む。案の定、図面にない古い配線が一本、想定外の位置を這っていた。

「これだから現場は面白い」

増田はつぶやきながら、ARグラスに配線ルートを重ねて表示させ、既存配線との干渉を確認する。最終的にどう引き回すかを決めるのは、AIの提案ではなく増田自身の判断だ。作業を終え、試験装置で通電・絶縁の確認をすると、タブレットが自動で試験成績書の下書きを作る。増田はその数値を目で確かめ、署名欄に自分の名前を書き込む。

「AIがどれだけ賢くなっても、この署名だけは俺の仕事だ」

法律上、この最終確認と署名は、有資格者本人にしかできない。

消えた業務・残った業務

分類内容
AIに代替見積書・仕様書のたたき台作成、施工図面のデータ化・完成図作成、試験成績書のとりまとめ、資材の発注・在庫管理
AIと協働ARグラスによる配線経路のガイド表示、点検・異常予兆の一次スクリーニング、スケジューリング・人員配置の最適化提案
人間に残る現場での配線・機器取付作業そのもの、通電試験後の最終確認と成績書への署名(法的責任)、非定型な建物構造への対応、感電・火災リスクを伴う判断

それでも人間がやる価値

電気工事士の核心は、「大丈夫です」と言えることにある。見積もりや図面はAIが下書きしてくれる時代になっても、実際に電線をつなぎ、通電させ、「これで安全です」と署名する責任は、法律によって人間の資格保有者に留保され続けている。感電や火災という、命に関わるリスクを扱う仕事だからこそ、最後に人間が請け負う意味が消えない。

2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • AI・ロボットを「使う側」に回った層(第一種電気工事士・電気主任技術者等の上位資格を持ち、EV充電・データセンター案件等の専門分野に強い一人親方層):850万円〜(上限なし)
  • 従来型の現場作業が中心で、雇用枠の縮小圧力を受けにくい一般社員層:520万円前後
  • 参考・2026年の平均:628.1万円(令和7年賃金構造基本統計調査)

電気工事士は、少子化のような下向きの力より、有効求人倍率3.8倍という深刻な人手不足のほうが強く働く職業だ。二極化ではなく、資格と専門分野の広さで年収の上乗せ幅が変わる「下支え型フレーム」で捉えるのが実態に近い。

この仕事を目指すきみへ

もし今、「AIに仕事を奪われそうな仕事」を避けて、「AIに奪われなさそうな仕事」を探しているなら、電気工事士は候補に入れていい。書類仕事は減っても、現場でつなぐ手は減らない。第二種電気工事士は、養成校を卒業するか国家試験に合格すれば取得できる。工業高校の電気科出身者だけでなく、専門学校卒・大学卒からの入職も少なくない。

大事なのは、手先の器用さより先に、慎重さと責任感だ。ミスが人の命に関わる仕事だからこそ、「これで大丈夫」と言い切れるまで確認をやめない姿勢が、AIには渡せない価値になる。

【コラム】電気工事士の資格はなぜ2種類あるのか

電気工事士には第一種と第二種がある。第二種は一般住宅や店舗など600ボルト以下の工事、第一種はビルや工場など、より大規模な自家用電気工作物の工事まで担える。多くの人はまず第二種を取得して現場に入り、経験を積みながら第一種を目指す。資格が細かく分かれているのは、それだけ電気工事が「間違えると命に関わる」仕事として、法律で慎重に扱われてきた証でもある。

まとめ

見積書や図面づくりはAIに任せられる時代になっても、電線をつなぎ、通電させ、「大丈夫です」と署名する責任は、法律によって人間に残されている。AIが増えれば増えるほど、AIのための電気を引く人間の仕事も増えていく——それが2045年の電気工事士の姿だ。

リファレンス

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました