AI時代 2045年の仕事内容「イラストレーター」編――量産する仕事は消えても、あなたの絵が欲しい人は消えない

2045年のイラストレーターの仕事内容を示すアイキャッチ画像 読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

仕事案内所の午後

スケッチブックを胸に抱えて入ってきた少女は、受付の前でいったん立ち止まり、「ここって、進路の相談もしてもらえますか?」とぽつりと言った。

制服のブレザーの端が少し毛羽立っていた。美術部のパレットで汚れたのか、左手の親指の腹に薄く青い絵の具がついている。

ミチルさんは「もちろんです」と椅子をすすめた。窓の外では2045年の秋の日差しが、建物の壁に細長い影を落としていた。

「高校1年生、ですか?」

「はい。松本 陽菜(まつもとはるな)といいます。美術部で、ずっと絵を描いてきて、それでイラストレーターになりたいって思っていたんですけど……」

陽菜は言葉を選ぶように間を置いた。

「AIがこんなに絵を描けるようになって、プロになっても仕事なんてないんじゃないかって、先生にも言われて。お母さんにも。それで……自分でも不安になってきて」

スケッチブックをぎゅっと抱えたまま、少女は前を向いた。

「あなたのその絵、少し見せてもらえますか」

ミチルさんがそう言うと、陽菜は少し迷ってから、ページをめくった。鉛筆で描かれた少女の横顔。背景のラフな木立。光の落ち方を意識した影のつけかた。

ミチルさんは一枚一枚をゆっくり眺めてから、スケッチブックを返した。

「この仕事、正直に言いますね」


AI代替率

(編集部予測)

72%

2045年現在、イラストレーターの仕事のおよそ72パーセントはAIが担っています。素材・定型イラスト・バナー制作など量産系の業務は大半が生成AIに移った一方、作家性・物語性・指名依頼を主体とする業務は人間に残りました。連載でもっとも高い数値の一つです。

「正直、怖い数字ですよね」とミチルさんは言った。「でもね、この数字だけで進路を決めないでほしいんです。どの業務が消えて、どの業務が残ったかを、一緒に見ていきましょう」


2026年、イラストレーターの現在地

2026年時点のイラストレーターは、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、就業者数は約4万7千人(2020年の国勢調査時点)で、そのうち88.7%が自営・フリーランスです。会社員として働くイラストレーターは全体の1割程度しかいません。

平均年収は492.2万円(令和7年賃金構造基本統計調査)とされていますが、これは雇用されているイラストレーターのデータです。フリーランスの実収入は個人差が非常に大きく、月収5万円にも満たない人もいれば、年収1,000万円を超える人気作家もいます。「平均値」が実態をほとんど語らない職業のひとつです。

仕事の依頼元は広告会社、出版社、印刷会社、ゲーム会社、個人クライアントなど多岐にわたります。2020年代以降はデジタルイラストが主流となり、パソコンとペンタブレット(ペン入力型のデジタル描画道具)を使う形式が標準になっています。素材販売サイトやクラウドソーシングを通じた受発注も広く行われています。


2045年、何がこの仕事を変えたか

変化は2段階で訪れました。

最初の波は2020年代後半、生成AIが本格的にイラスト市場に入ってきた時期です。ロゴのベース素材、SNS投稿用のアイコン、バナー広告の背景、電子書籍の挿絵の一部、クリップアート的な素材――こうした「発注側の要望が明確で、繰り返し量産される仕事」から、AI生成が急速に広まりました。

世界観バイブルが示す2045年の技術前提に沿うと、フィジカルAI(作業ロボット)はまだ苦手な領域がありますが、画像生成は大きく進歩しました。クライアントが「もう少し明るい雰囲気で」「配色を変えて3パターン」と話しかけると、AIが数秒で候補を並べる。そういう世界が当たり前になっています。

しかし、もう一つの変化も同時に起きました。

「人間製証明」という概念の定着です。

AIが何でも生成できるようになったことで、逆に「人間が制作した」という事実が、受け取る側に特別な意味を持つようになりました。制作過程の動画、描き直しの跡、誰が描いたかというストーリー――そこに対してお金を払う人が、確実に存在するようになったのです。

「あの人の絵で、この物語の世界を作ってほしい」という依頼は、AIが登場したことで消えるどころか、むしろ明確な言葉になりました。


ある一日――2045年のイラストレーター

佐々木 美月(ささき みつき)は38歳。自宅の一角をスタジオ代わりに使うフリーランスイラストレーターだ。SNSのフォロワーは18万人。絵本の挿絵と、独立系のゲームスタジオからの依頼を主な仕事にしている。

午前8時。コーヒーを一杯淹れてから、前日の途中まで描いた画面を開く。今は絵本の第三章の見開きページを担当している。主人公の女の子が古い図書館の窓から外を見ているシーン。

「奈緒さんの描く光の感じで、このページをお願いします」と依頼メールに書いてあった。「奈緒さんの光の感じ」というのは、美月が幼いころから描き続けてきた、逆光の中で輪郭がにじむような独特の処理のことだ。これだけは誰も真似できない、と言われる。AIにも出せないと言われる。

午前中、気になったシーンの色合いを確認したくて、AI補助ツールに似た雰囲気の参考画像を10枚ほど出力させる。確認したら閉じる。描くのは自分の手だ。

ペンタブレットの上で線が動く。窓の枠、外の木の葉、光の粒。美月が線を引くたびに、この絵の「体温」が決まっていく。

午後2時、クライアントとのビデオ通話。「美月さんのラフ、スタジオ全員で見ました」と担当者が言う。「主人公の目の描き方が、原作者の意図と完全に重なってた。これ、AIには出せないですよね」

夜、制作過程のタイムラプス動画をSNSに投稿する。「今日の線入れ、20分版」というタイトルをつける。投稿後の30分で1,400件のいいねがつく。ファンからのコメントが流れ込んでくる。「この手の動きが好き」「何度見ても飽きない」「機械とは違う迷い方をしてる」。

美月は画面を一度閉じてから、また開いた。明日も描く。


消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替SNS広告用バナー/定型素材・クリップアート的なイラスト/背景素材の量産/フォーマット変換・色調整の定型処理
AIと協働ラフのアイデア出し・配色の候補整理/参考ビジュアルの収集と選別/背景の一部生成(人物は自分で描く)
人間に残るキャラクターの表情・感情設計/物語性・世界観が必要な挿絵/描き手のブランドにもとづく指名依頼/クライアントとの長期的な協業関係

それでも人間がやる価値

「AIが絵を描けるなら意味がない」という不安は、実は逆の問いを立て直しています。

「誰が描いたかが、意味を持つのはどういう場面か」

絵本の世界観。ゲームのキャラクターデザイン。個人作家の作品。物語の空気感。――これらに共通するのは、「この人の感性を通ったものが欲しい」という、受け手の気持ちです。

2045年のイラストレーターの仕事は、「絵を描く技術」だけではなく、「この人の絵であること」が商品になる時代になっています。それはミチルさんが若いころにはまだ言語化されていなかった価値です。AIが台頭したことで、初めてその価値がはっきり見えるようになった。

「あなたの絵が欲しい人は、必ずいます」

ミチルさんはそう言ってから、少し間を置いた。「ただし、その人たちにあなたの絵を届けられるかどうかは、技術と同じくらい、発信にかかっています」


2045年の年収

2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • 作家性・発信力を持つ層(フリーランス・独立開業):700万円〜(上限なし)
  • 依頼仕事中心の中堅フリーランス:350〜500万円前後
  • 量産系の素材・定型業務が中心だった層:収入が大幅に減少(AIへの代替が直撃)
  • 参考・2026年の平均(雇用者ベース):492.2万円(賃金構造基本統計調査)

フリーランス比率が88.7%という職業ですから、個人の作家性と発信力が収入に直結します。「量産する仕事は消えても、あなたの絵が欲しい人は消えない」という構図は、単なる慰めではなく、市場の変化をそのまま言い換えたものです。

ただし、発信をしなければ「欲しい人に届かない」のも事実。同じ技術でも、SNSで制作過程を見せ続けた人と、そうでない人とで、20年後の収入に大きな差が生まれています。


この仕事を目指すきみへ

ミチルさんは陽菜のスケッチブックのことを思い出しながら言った。

「今日からできることが、三つあります。まず、描き続けること。枚数に代わりはありません。AIが登場しても、うまくなるには描くしかない。二つめは、今すぐ発信を始めること。完成品じゃなくていい、描いている途中でいい。あなたの線が動くのを見せること。三つめは、AIを道具として使いこなすこと。敵じゃなく、アシスタントです」

絵を描くのが好きという気持ちは、この先の20年で一番強い武器になります。AI代替率72%という数字が意味するのは「仕事がなくなる」ではなく、「どの仕事が残るか、はっきりした」ということです。

残る仕事の中心にいるのは、好きで描き続けた人です。

【コラム】人間製証明(ヒューマン・メイド・オーセンティケーション)とは

「人間製証明(Human-made Authentication)」は、2030年代に普及したコンテンツの「作者確認」の仕組みです。画像・文章・音楽が誰によって(人間かAIか、あるいはどの程度人間が関与したか)作られたかを、制作過程のデータとともに記録・公開する考え方です。

美術館、出版社、ゲームスタジオなどが「人間が主体的に制作した」ことを明示するようになり、それを好むクライアントや受け手が一定数現れました。イラストレーターをはじめとするクリエイターにとって、これは追い風でもあります。「誰が、どう描いたか」を見せることが、仕事の証明書になる時代が来ています。


まとめ

イラストレーターのAI代替率(編集部予測)は72%です。素材・定型・量産系の業務は大きく削られました。しかし「誰が描いたか」という問いが意味を持つ領域では、人間の仕事は残っています。

フリーランス比率88.7%という職業は、個人の作家性と発信力が収入に直結します。AIが普及したことで、「あの人の絵が欲しい」という気持ちは言語化され、市場で評価されるようになりました。

絵を描く技術と、自分を届ける発信。その両輪を持った人にとって、2045年は決して終わりではありません。

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


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