※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。
駅前の雑居ビルの2階、仕事案内所。7月の午後、小学5年生の男の子が、母親に連れられてやってきました。
「将来の夢の作文で、消防士って書いたんです。でも先生に、その頃にはドローンとロボットが火事とか消しちゃうかもねって言われて、ちょっとしょんぼりしちゃって」と母親が言います。
男の子は下を向いたまま、小さくうなずきました。
ミチルさんは男の子の目線に合わせて、少ししゃがみます。「いい夢だと思いますよ。じゃあ──この仕事、正直に言いますね」
AI代替率
(編集部予測)
20%
2045年現在、消防士の仕事のおよそ20%はAIとドローンが担っています。これは、これまで紹介した7職業の中でもっとも低い数字です。現場の様子を調べる仕事はAIに譲りましたが、現場に飛び込む仕事は、今も人間のままでした。順番に見ていきましょう。
2026年、消防士はこういう仕事だった
「まず、いまの数字からです」とミチルさんは言います。
2026年時点で、消防職員の数は全国で16万8,898人。平均年収は335.3万円でした。ほとんどが正規の公務員として働き、24時間勤務と休みを繰り返す交替制で消防署に詰めていました。
仕事の中身は、火災の消火、逃げ遅れた人の救助、事故現場での救出、けが人の応急手当と搬送。それだけでなく、ビルや店舗を訪ねて火災報知器やスプリンクラーがちゃんと機能するか確認する「予防査察(よぼうささつ)」、学校や地域での防災訓練の指導、火災の原因調査まで、幅広い仕事をこなしていました。当時から「機械やコンピュータでの自動化」を示す数値は1.8と低く、この連載で紹介した中でもとりわけAIに置き換わりにくい仕事として見られていました。
2045年、何がこの仕事を変えたのか
変化の中心は、「調べる」仕事のAI化でした。
119番通報が入ると、AIが瞬時に状況を分析し、もっとも早く現場に着けるルートを計算するようになりました。 火災現場に到着する前には、小型ドローンが先行して飛び、建物の状況や煙の広がり方、逃げ遅れた人がいそうな場所を空から確認し、隊員のヘルメット内の画面に映し出します。かつて現場に着いてから手探りで状況を把握していた時間は、大きく短縮されました。予防査察のデータ管理や、火災原因調査の記録作成、防災啓発の教材づくりも、AIが手伝うようになりました。
それでも、実際に建物の中に入り、炎の中から人を運び出すのは、変わらず人間の消防士でした。 どこにどんな危険が潜んでいるか分からない現場で、瞬時に判断し、体を張って動く仕事は、機械にとって歯科医師の口の中や、美容師の鏡の前以上に難しい作業環境だったのです。加えて、助け出した人に声をかけ、地域の人たちに防災を教え、後輩の隊員を指導し、支えるという「人と向き合う」仕事も、ドローンには渡せませんでした。
「私たちの仕事も、昔と比べると調べ物にかかる時間はぐっと減りましたね」とミチルさんは、ふと現場の知人の話をするように言います。「でも、飛び込むところだけは、結局最後まで人間なんですよ」
ある消防士の一日──2045年
都市部の消防署に勤務する、30代の女性隊員の一日を見てみましょう。
朝、当番の日。署に着くと、AIが夜間の火災リスクが高いエリアの分析結果を表示しています。乾燥注意報が出ている地区、老朽化した住宅が多い地区。彼女はその情報を頭に入れて、今日の巡回ルートを確認します。
昼過ぎ、火災の通報。出動指令と同時に、先行したドローンからの映像が届きます。「2階の窓に人影あり」。彼女は空気呼吸器を背負い、はしごを使って建物に入ります。煙の中で、AIが示した位置情報を頼りに進みながらも、最終的に「この先に進めるか」を判断するのは自分自身です。逃げ遅れていた高齢の女性を見つけ、抱えて外に運び出します。
午後、鎮火後の現場検証。夕方には、地域の小学校で行う防災教室の準備。子どもたちに、煙の中では姿勢を低くして進むことを教えます。
夜、署に戻って後輩の訓練に付き合います。今日も、飛び込む瞬間の判断は、AIではなく、彼女自身のものでした。
消えた業務・残った業務
| 分類 | 業務 |
|---|---|
| AIに代替 | 通報内容の分析・出動ルートの算出、ドローンによる現場の事前偵察、予防査察のデータ管理・記録作成、防災啓発教材の作成 |
| AIと協働 | 火災原因調査(AIがデータ分析を補助、最終判断は人間)、救急搬送先の選定支援 |
| 人間に残る | 消火活動・建物内への進入、人命救助・応急手当・搬送、危険物対応、現場での即時判断、地域住民への指導・信頼構築、隊員の教育とメンタルサポート |
それでも消防士が消えない理由
「消防士の本業はね」とミチルさんは男の子に言います。「火を消すことだけじゃないんです。怖くて動けない人のところに、いちばん最初に駆けつけることなんですよ」
火災や事故の現場は、一つとして同じものがありません。煙の濃さも、建物の壊れ方も、助けを求める人の状態も、そのときにならないと分かりません。ドローンが状況を伝えてくれても、その先どう動くかを決めて、実際に体を運ぶのは、今も人間にしかできない仕事でした。加えて、人の命に関わる判断を機械にすべて委ねることを、2045年の社会もまだ選んでいません。
「だから、ロボットが全部やってくれる仕事にはならないと思いますよ」とミチルさんは言います。「あなたが大きくなる頃には、道具はもっと賢くなっているはずです。でも、飛び込む勇気は、道具では代われません」
2045年の年収──階級と専門技能で伸びる
2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)
- ドローン運用や特殊技能(危険物・国際救助隊等)を持ち、階級を上げた層:480万円前後
- 現場配属を続ける一般隊員:380万円前後
- 参考・2026年の平均:335.3万円(公的統計にもとづく当時の値)
消防士は公務員なので、他の職業のような「独立して稼ぐ」道はありません。年収は基本的に、階級と地域の手当で決まる仕組みが続きます。ただし、AIやドローンを使いこなす専門技能を身につけ、昇進試験を突破していく人は、着実に年収を伸ばしやすくなる——それが編集部の予測です。歯科医師や税理士のような大きな二極化ではなく、地道な積み上げ型の変化と言えます。
この仕事を目指すきみへ
「僕、体力あんまりないんですけど、大丈夫ですか」と男の子は聞きました。
「今から鍛えれば大丈夫ですよ」とミチルさんは笑って、指を3本立てます。
第一に、体力と冷静さ。危険な場所で、慌てずに体を動かす力は、この仕事の土台です。第二に、瞬時の判断力。決まった正解がない現場で、そのつど考えて動く力が求められます。第三に、人に教え、支える力。後輩を育て、地域の人たちに防災を伝える仕事も、消防士の大事な役割です。
「ドローンがどれだけ賢くなっても、最後に飛び込むのは人間です。その日のために、今は思いきり体を動かしておいてください」
男の子は少し胸を張って、母親と一緒に案内所を出て行きました。
【コラム】2045年の火災現場
編集部が予測する2045年の火災現場は、こうです。通報が入ると同時に、小型ドローンが先行して現場上空へ飛び、建物の状況をヘルメットの画面に映し出します。隊員はその情報を見ながら現場に向かいますが、実際に建物の中に入るかどうか、どこから進むかを決めるのは、今も人間の判断です。調べる時間は短くなりましたが、飛び込む瞬間の重みは、20年前と変わっていません。
まとめ
- AI代替率(編集部予測)は20%。AIとドローンが担うのは通報分析・現場偵察・記録作成にとどまりました
- それでも消防士が消えない理由は、現場での即時判断と、体を張って人を助ける行為が人間に残っているからです
- 年収は階級と専門技能による積み上げ型。公務員のため、他の職業のような大きな二極化は起きにくい構造です
- 目指す人が磨くべきは、体力と冷静さ・瞬時の判断力・人に教え支える力の3つです
次回の「AI時代 2045年の仕事内容」では、別の相談者が案内所を訪ねます。取り上げてほしい仕事があれば、Xで編集部まで教えてください。
消防官 – 職業情報提供サイト(job tag)(厚生労働省)
※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


