AI時代 2045年の仕事内容「税理士」編──帳簿の仕事は消えても、相談に乗る仕事は消えない

読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

駅前の雑居ビルの2階、仕事案内所。7月の夕方、30代の女性がドアを開けました。一般企業で経理を担当していて、簿記2級を持っているといいます。

「税理士を目指そうか迷ってて。でも、もう遅いですよね。AIが帳簿つけてくれる時代に、わざわざ資格取っても」

ミチルさんは端末を引き寄せて、少し考えるように言いました。「じゃあ──この仕事、正直に言いますね」

AI代替率

(編集部予測)

60%

2045年現在、税理士の仕事のおよそ60%はAIが担っています。これまで紹介した歯科医師(55%)・保育士(30%)・トラック運転手(50%)の中で、もっとも高い数字です。この仕事は「手」ではなく「頭」を使う仕事だからこそ、AIとの相性がよかったのです。それでも、税理士という仕事そのものは残りました。順番に見ていきましょう。

2026年、税理士はこういう仕事だった

「まず、いまの数字からです」とミチルさんは言います。

2026年時点で、税理士の就業者数は約6万4,000人。平均年収は856.3万円で、他の3職業より高い水準でした。就業形態は自営・フリーランスが3割強、経営層も含めると4割近くが「自分で事業を営む」形でした。

仕事の中身は、税金の申告・相談の代理をする「税務代理」、確定申告書や法人税申告書を作る「税務書類の作成」、税金についての相談に答える「税務相談」。この3つは、税理士だけが行える独占業務(どくせんぎょうむ=他の職業や会社が代わりに行えない、法律で決められた仕事)でした。同時に、「機械やコンピュータでの自動化」を示す数値は2.7と、これまで紹介した仕事より明確に高く、当時から「AIに向いている仕事」として見られていたことが、公的なデータからも分かります。実際、当時の職業データにも、全自動の会計ソフトが広がり始めていて、単純な会計業務だけでなく、より高度な相談役としての役割が求められるようになってきている、という記述がありました。

2045年、何がこの仕事を変えたのか

変化の中心は、「作る」仕事から「背負う」仕事へのシフトでした。

帳簿への入力、仕訳、確定申告書の下書き作成は、ほぼ全面的にAIが担うようになりました。 経営者がレシートや請求書をスマートフォンで撮影するだけで、AIが自動で仕訳をして、申告書の下書きまで作ります。税法が改正されたときの最新情報のチェックも、AIが常に把握しています。かつて2月から3月の確定申告シーズンに徹夜が続いていた光景は、大きく減りました。

それでも、最後にその申告書へ名前を書いて提出するのは、人間の税理士です。 AIが作った下書きに、間違いがないか、グレーゾーンの判断が必要な部分がないかを確認し、最終的な責任を負って税務署に提出する。この「背負う」役割は、法律で人間の税理士に留保されたままでした。加えて、税務調査への立ち会いや、意見が対立したときの税務署との交渉、税務訴訟での補佐人としての役割も、人間にしかできない仕事として残りました。

もうひとつ大きく変わったのは、経営相談の重みです。単純な計算や申告作業が減った分、税理士は「この会社は、これからどうすればいいか」を考える相談相手としての役割が大きくなりました。中には、無理な節税や不正な処理を求めてくる依頼者もいます。そうした依頼を断り、法令を守る姿勢を保つことも、AIには代われない仕事でした。

ある税理士の一日──2045年

顧問先を多く持つ、40代の税理士の一日を見てみましょう。

朝、事務所に着くと、AIが夜間に処理した顧問先の帳簿データがまとめて届いています。仕訳の異常値が2件、確認が必要な項目が3件。彼はそれぞれの数字の背景を確認し、担当者に電話で事情を聞きます。かつて何時間もかけていた入力作業は、ほとんど発生しません。

午前は、拡大を考えている顧問先の社長との打ち合わせ。AIが出した3パターンの資金計画を見ながら、社長の思いや事業の実情を聞き、どの計画が実際に合っているかを一緒に絞り込みます。

午後、別の顧問先から、実態のない経費を計上してほしいという相談を受けます。彼は静かに、それはできないと伝え、代わりに合法的にできる対策を提案します。

夕方、税務署から問い合わせがあった件で、担当者と電話でやり取りをします。AIが用意した資料をもとに、こちらの立場を説明し、交渉をまとめます。事務所に戻って、彼は思います。計算する時間は減った。でも、判断して、伝える時間は変わらない。

消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替記帳・仕訳の入力、確定申告書・法人税申告書の下書き作成、税法改正情報の収集・整理、数値の計算・集計
AIと協働税務相談の一次回答案の作成(最終判断は人間)、資金計画・経営分析の資料作成、税務調査への準備資料の整理
人間に残る税務代理(申告書への最終責任)、税務調査への立ち会い、税務訴訟での補佐人、経営者との対話・信頼構築、不正の依頼を拒否する倫理判断、グレーゾーンの税務判断

それでも税理士が消えない理由

「税理士の本業はね」とミチルさんは言います。「計算することじゃないんです。その数字に、自分の名前で責任を持つことなんですよ」

税金の申告は、間違えれば追徴課税や罰則につながる重い行為です。AIがどれだけ正確に計算しても、「この内容で提出します」と最終的に約束するのは、資格を持った人間でなければならないと、法律も社会もまだ判断していません。加えて、税務署との交渉や、依頼者からの無理な要求を断る場面には、計算力ではなく人としての判断力と胆力が必要です。

「だから、単純作業が減った分、この仕事はむしろ、人間らしい部分がはっきり見えるようになったと思います」とミチルさんは言います。

2045年の年収──専門性で分岐する

2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • 経営コンサルティングや国際税務、事業承継など高度な専門性を持つ層:1,200万円〜
  • 記帳代行・確定申告の代理を中心に担う層:500万円前後
  • 参考・2026年の平均:856.3万円(公的統計にもとづく当時の値)

税理士の仕事は自動化の余地が大きいぶん、二極化の振れ幅も大きくなりました。単純な記帳代行や確定申告の代理だけを担う税理士は、AIとの価格競争にさらされ、報酬が下がりやすくなりました。一方、経営者の複雑な悩みに答えられる専門性や、他の資格との組み合わせ(ダブルライセンス)を持つ税理士は、AIに置き換えられない相談相手として、報酬を上げやすくなった——それが編集部の予測です。

この仕事を目指すきみへ

「じゃあ、目指してもいいんですかね」と彼女は聞きました。

「いいと思いますよ。ただし」とミチルさんは指を3本立てます。

第一に、数字の背景を読む力。AIが出した数字が正しいかどうかだけでなく、その数字が生まれた事情まで理解できる人が求められます。第二に、対話力と胆力。経営者の悩みを聞き出し、時には無理な依頼をきっぱり断る強さが必要です。第三に、専門分野を絞る力。国際税務、事業承継、他の資格との組み合わせなど、AIが苦手な複雑な領域を持てるかどうかが、この仕事の将来を大きく左右します。

「計算が得意だから、という理由だけで目指すと、これからは厳しいかもしれません。人の相談に乗るのが好きかどうか、そこも考えてみてください」

彼女は少し表情をゆるめて、案内所を出て行きました。

【コラム】2045年の確定申告シーズン

編集部が予測する2045年の2月は、こうです。経営者はレシートをスマートフォンで撮影するだけで、AIが自動で仕訳をして申告書の下書きを作ります。税理士のもとには、AIが「これは確認が必要です」と旗を立てた項目だけが届く。かつて事務所の明かりが深夜まで消えなかった確定申告シーズンは、静かな時期になりました。その代わりに増えたのは、1年を通じた経営相談の時間です。

まとめ

  • AI代替率(編集部予測)は60%。記帳・仕訳・申告書の下書き作成はAIに移りました
  • それでも税理士が消えない理由は、申告への最終責任と、経営者との信頼関係、不正を拒む倫理判断が人間に残っているからです
  • 年収は二極化。専門性の高さとダブルライセンスが分かれ目になります
  • 目指す人が磨くべきは、数字の背景を読む力・対話力と胆力・専門分野を絞る力の3つです

次回の「AI時代 2045年の仕事内容」では、別の相談者が案内所を訪ねます。取り上げてほしい仕事があれば、Xで編集部まで教えてください。

税理士 – 職業情報提供サイト(job tag)(厚生労働省)

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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