AI時代 2045年の仕事内容「保育士」編──書類仕事は消えても、抱っこは消えない

読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

駅前の雑居ビルの2階、仕事案内所。7月の午後、大学2年生の女性が椅子に腰かけました。就職活動を控えて、進路を絞りきれずにいるといいます。

「保育士を目指してたんですけど、親に反対されて」

ミチルさんは端末から顔を上げました。「理由を聞いてもいいですか」

「給料が安いって。それに、これからは子どもの数も減るし、AIに仕事取られるって言われて……」

「ふたつ、混ざってますね」とミチルさんは言います。「AIの話と、子どもの数の話。じゃあ──この仕事、正直に言いますね」

AI代替率

(編集部予測)

30%

2045年現在、保育士の仕事のおよそ30%はAIが担っています。歯科医師(55%)と比べると、ずっと低い数字です。理由は単純で、この仕事の中心は「書類」ではなく「人」だから。ただし、AIに奪われなかったこの仕事にも、確かに変化はありました。順番に見ていきましょう。

2026年、保育士はこういう仕事だった

「まず、いまの数字から話しますね」とミチルさんは言います。

2026年時点で、保育士の就業者数は約63万人。平均年収は406.8万円でした。そして、いちばん大事な数字がこれです。有効求人倍率3.16。歯科医師が「供給過剰」に悩んでいたのと同じ時期、保育士は逆に、深刻な人手不足に悩んでいました。

仕事の中身を見ると、食事や着替えの介助、発達の見守り、遊びを通じた教育がほぼすべての保育士が行う中核業務でした。同時に、保育日誌や連絡帳、園だよりの作成といった書類仕事も9割を超える保育士が抱えていて、「子どもと向き合う時間」と「机に向かう時間」のバランスに悩む声が多い仕事でした。当時の公的な職業データでも、「他者との身体的な近さ」を示す数値が非常に高く、「機械やコンピュータでの自動化」を示す数値は低いという結果が出ていました。つまり、2026年の時点から「この仕事はAIに置き換えにくい」ということが、データの上でもはっきりしていたのです。

2045年、何がこの仕事を変えたのか

変化は、大きく2つの方向で来ました。

ひとつは、書類仕事の自動化です。 保育日誌はセンサーと連携したAIが下書きを作るようになりました。子どもの体温や活動量、食事量は自動で記録され、連絡帳に載せる一言も、AIが候補を出して保育士が選んで送るだけになりました。かつて勤務時間の一部を占めていた事務作業は、大きく圧縮されました。

もうひとつは、子どもの数そのものが減ったことです。 2020年代から続いていた少子化の流れは、2045年にも止まっていません。この結果、街の小さな保育園が単独で運営を続けるのが難しくなり、同じ建物の中で高齢者施設と保育園が一体になった「複合福祉施設」が増えました(この動き自体は2020年代から一部の地域で始まっていました)。子どもと高齢者が同じ場所で過ごすことも珍しくなくなり、保育士には子ども以外の世代ともかかわる力が求められるようになりました。

一方で、AIロボットが子どもの世話をする光景は、2045年になっても実現していません。理由は2つです。ひとつは、乳幼児の世話は突発的な状況(誤嚥・転倒・けんか・急な発熱)の連続で、機械にとって歯科医師の口の中以上に判断が難しい環境だから。もうひとつは、幼い子どもを預かる施設には法律で保育士の人数の下限(配置基準=はいちきじゅん)が定められていて、この基準は2045年も人間の資格者を前提にしたままだからです。信頼を必要とする現場に、社会がロボットを入れることを選ばなかった、というのが編集部の見立てです。

ある保育士の一日──2045年

複合福祉施設で働く、30代の保育士の朝を見てみましょう。

朝7時。登園してくる子どもたちを迎えながら、彼女は端末をちらりと見ます。夜間にAIが整理した「気になる子」のリスト。昨日眠りが浅かった子、朝の体温がいつもより高い子。3人の名前が挙がっています。声をかけながら、いつもより丁寧に様子を見ていくと決めます。

午前中は外遊び。転んだ子を抱き上げて泣き止むまで付き添い、けんかになった2人の間に入って、それぞれの話を聞きます。この時間、AIにできることはほとんどありません。

給食のあと、午睡(ごすい)の時間に、彼女は保育日誌の画面を開きます。AIが下書きした今日の記録に、目を通して2箇所だけ手直しし、承認ボタンを押します。かつて30分かかっていた作業は、5分で終わりました。

午後は、同じ建物の高齢者施設で行う交流の時間。おばあちゃんたちに絵本を読んでもらう子どもたち。彼女はその様子を見守りながら、両方の職員と今日の様子を共有します。

夕方、最後の保護者にその日の様子を話して見送って、彼女は思います。書く時間は減った。でも、見る時間と、抱きしめる時間は変わらない。

消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替保育日誌・連絡帳の下書き作成、体温・活動量の記録、出席管理、園だよりの事務的な部分の作成
AIと協働個別の発達記録の分析(最終判断は人間)、教材の個別最適化、保護者への通知内容のカスタマイズ
人間に残る食事・着替え・抱っこなどの身体的なケア、けんかや事故への対応、情緒面の見守り、保護者との信頼構築、多世代との関わり

それでも保育士が消えない理由

「保育士の本業はね」とミチルさんは言います。「書くことじゃないんです。転んだ子を、誰よりも早く抱き上げることなんですよ」

保育の現場は、予測できないことの連続です。次に何が起きるか分からない集団の中で、危険を察知し、とっさに体を動かし、泣いている理由を言葉にできない子どもの気持ちを読み取る。この「察して、動く」力は、データの蓄積だけでは追いつきません。加えて、幼い子どもを預かるという行為そのものが、社会にとって特別に重い責任です。その責任を、人ではない何かに委ねることを、2045年の社会もまだ選んでいません。

「だから、AIに取られる心配は、優先順位としては低いです」とミチルさんは言います。「気にするべきはむしろ、もう一つの話のほうですね」

2045年の年収──働き方で、差がつく

2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • 特別な支援を要する子どもの対応や、複合施設の運営・多職種連携に強みを持つ層:550万円〜
  • 従来型の保育業務のみを担う層:350万円前後
  • 参考・2026年の平均:406.8万円(公的統計にもとづく当時の値)

歯科医師のような「AIの上に立つか、AIと同じ土俵で戦うか」という分かれ方とは、少し事情が違います。保育士の場合、AIによる代替はそもそも小さいので、年収の差を生むのは「子どもの数が減る中で、施設からどれだけ必要とされる人材か」です。特別な支援が必要な子どもへの対応力、高齢者施設との連携力、複合施設の運営に関わる力を持つ人は、需要が集まって年収が上がる。一方、書類仕事が減った分だけ業務が単純化された従来型の保育業務だけを担う層は、供給過剰の地域では上がりにくい──それが編集部の予測です。

この仕事を目指すきみへ

「じゃあ、なりたいなら、なっていいんですね」と彼女は聞きました。

「いいですよ。ただし」とミチルさんは指を3本立てます。

第一に、身体を使ったケアの技術と体力。抱く、支える、見守る。この仕事の土台は、最後まで人の体と時間です。第二に、察する力。言葉にできない子どもの気持ちを読み取り、保護者の不安に寄り添う。これはAI時代にもっとも価値が上がった対人スキルです。第三に、多世代・多職種と関わる力。子どもだけでなく、高齢者施設の職員や、特別な支援を必要とする家庭とも連携できる人が、これからは強く求められます。

「AIに仕事を取られる心配より、どんな子どもや家庭の力になりたいか、そっちを先に考えてみてください」

彼女は少し表情をゆるめて、案内所を出て行きました。

【コラム】2045年の保育園の朝

編集部が予測する2045年の保育園は、こうです。子どもの体温や睡眠のリズムはセンサーで自動的に記録され、保育士のタブレットに「今日気をつけたい子」がそっと表示される。連絡帳の文章はAIが候補をいくつか作り、保育士が選んで送る。でも、教室の中にロボットの姿はありません。抱っこするのも、けんかを止めるのも、絵本を読むのも、20年前と同じように人間です。この仕事でAIが変えたのは、教室の外にある「机の上の仕事」だけだったのかもしれません。

まとめ

  • AI代替率(編集部予測)は30%。書類仕事・記録・事務作業はAIに移りましたが、身体的なケアは移りませんでした
  • 保育士が消えない理由は、危険を察知して動く力と、幼い子どもを預かる責任を人間に残しているからです
  • 年収の差を生むのはAIではなく、少子化が進む中でどれだけ施設に必要とされる人材かです
  • 目指す人が磨くべきは、身体を使ったケアの技術・察する力・多世代と関わる力の3つです

次回の「AI時代 2045年の仕事内容」では、別の相談者が案内所を訪ねます。取り上げてほしい仕事があれば、Xで編集部まで教えてください。

保育士 – 職業情報提供サイト(job tag)(厚生労働省)

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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