AI時代 2045年の仕事内容「農家」編――トラクターのハンドルは消えても、収穫を決める目は消えない

AI時代2045年の仕事内容「農家」編アイキャッチ 読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

「祖父の田んぼ、継がないかって言われてて」

仕事案内所の椅子に座るなり、鈴木蒼太(32)はそう切り出した。東京の食品商社に勤める会社員で、農業とは無縁の暮らしをしてきた。新潟で米を作る祖父が78歳になり、そろそろ体がきついと連絡してきたのだという。

「継ぐなら今のうちにって言われて。でも正直、農業なんて調べれば調べるほど、機械とAIで人手がいらなくなる仕事に見えて。せっかく安定した会社を辞めてまでやる意味、あるんですかね」

そう言いながらも、蒼太の指は落ち着かずスマートフォンの画面を触っていた。案内所の窓の外では、初夏の風が吹いている。

「この仕事、正直に言いますね」とミチルさんは言った。「2045年現在、農家の仕事のおよそ45パーセントはAIとロボットが担っています。トラクターの運転、田んぼの水管理、生育データの記録――このあたりは、もうほとんど機械に任せられるようになりました」


AI代替率

(編集部予測)

45%


2026年、農家の現在地

2026年時点、日本の稲作にたずさわる人は約145万人(令和2年国勢調査)。ただし、実際に農業を仕事の中心にしている「基幹的農業従事者」は約111.4万人で、平均年齢は69.2歳(2024年時点・農林水産省)まで上がっています。稲作農家のうち、農業だけで生計を立てている「主業農家」は2割弱にとどまり、残りの多くは他の仕事と兼業しています(2020年時点)。

働き方の7割以上が自営・フリーランスで、平均年収は360.8万円(令和7年賃金構造基本統計調査)。農地や機械という大きな元手が必要な仕事のため、これまでは親や親戚から農地を引き継ぐ人がほとんどでした。ただし最近は、蒼太のように農家の生まれではない人が、新規に農業を始めるケースも少しずつ増えています。

「トラクターの運転や水やりは、確かにロボットに任せられるようになってきています」とミチルさんは続けた。「でも、農業の仕事は、それだけじゃないんです」


2045年、何がこの仕事を変えたか

変化の中心にあるのは、自動運転する農業機械です。2026年時点ですでに、大手農機メーカー各社が自動運転トラクター(人が周囲で監視するレベル、遠隔監視するレベルの2段階)を市場に投入し、普及が進んでいました。田んぼを耕す・田植えをする・農薬をまくといった、決まった手順で進められる作業から、機械への置き換えが広がっていきました。

一方で、思うように進まなかった領域もあります。野菜や果物を収穫するロボットの開発です。トマトやイチゴのように、実がどれだけ熟しているかを見極めて丁寧に扱う必要がある作物は、2026年時点でも技術開発の難度が非常に高く、実用化には至っていませんでした。相手が毎回形も熟れ具合も違う「柔らかいもの」であることが、機械にとって最大の壁だったのです。

2045年になっても、この壁は完全にはなくなっていません。広い田畑で同じ作業を繰り返す穀物・畑作の分野は自動化が大きく進んだ一方、野菜や果物の収穫は、センサーが熟度の目安を示し、最終的に収穫するかどうかを人が決める「人とロボットの分担」という形に落ち着きました。


ある一日

夜明け前、田んぼのわきに置かれたタブレットが小さく鳴った。無人のロボットトラクターが、今日の作業計画どおりに畦道の手前で待機している。今日の担当者は、タブレットの画面越しに機体の状態を確認し、作業開始のボタンを押す。

日が高くなる頃、担当者は軽トラックで畑を回っていた。見ているのは、育っているトマトの色と、葉の付き方だ。センサーはすでに「収穫適期に近い」という通知を出している。けれど最後に決めるのは、担当者自身の目だった。今朝の天気予報では、明日の午後から急な雨が予想されている。「今日中に、この列だけ先に穫っておこう」――その場での判断だった。

夕方、隣の集落の生産者から連絡が入った。共同で使っているロボット農機の順番を、来週どう組むか相談したいという。機械は正確に動く。けれど、誰がいつ、どの田んぼで使うかを決めるのは、今日も人同士の相談だった。


消えた業務・残った業務

分類内容
AIに代替トラクターの走行・耕起・田植え・農薬散布などのルーティン作業、田んぼの水管理の遠隔・自動化、生育データの記録・集計
AIと協働衛星・ドローンによる生育状況のセンシングと施肥・防除の提案、需要予測にもとづく出荷計画のたたき台づくり
人間に残る野菜・果物の収穫適期や品質の最終判断、天候急変時の臨機応変な対応、新しい品種の選定や販路開拓などの経営判断、地域での水利調整や共同作業の采配

それでも人間がやる価値

ロボットが正確にこなせるのは、あらかじめ決められた手順です。けれど、自然を相手にする農業では、「今日、何をすべきか」を決める場面が毎日のように訪れます。天候の急変、作物ごとに違う熟れ具合、その年ならではの土の状態――こうした「毎回違う条件のもとで、その場で判断する」ことこそ、2045年になっても機械が最後まで追いつけなかった部分です。


2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • スマート農業を取り入れ、経営規模を広げた層:800万円〜(上限なし)
  • 従来の小規模経営のまま規模を広げなかった層:300万円前後
  • 参考・2026年の平均:360.8万円(令和7年賃金構造基本統計調査)←一次情報◎

高齢化で農地を手放す生産者が増える一方、その農地を借りて経営を広げる担い手には集積が進みます。スマート農業で労力あたりの作業量を増やせる経営体ほど、規模拡大の恩恵を受けやすい――というのが、この分岐の背景にあるロジックです。


この仕事を目指すきみへ

「農地や機械がないと始められない、というのは今も本当です」とミチルさんは言った。「でも、農家の生まれじゃない人が、新しく農業を始める道も、少しずつ広がってきています。必要なのは、機械を使いこなす力だけじゃありません。データを読む力と、それでも最後は自分の目で見て決める胆力、その両方です」

蒼太は黙って話を聞いていた。「継ぐにしても、新しく始めるにしても、答えを急がなくていいと思います」とミチルさんは付け加えた。「まずは実際の田んぼに立って、機械に任せられる部分と、自分で決めたい部分を、自分の目で確かめてみてください」

【コラム】二毛作という知恵

日本の稲作には、地域による工夫の違いがあります。関東より南西の比較的暖かい地域では、夏に米を作り、冬に別の作物を育てる「二毛作」が広く行われてきました。同じ田んぼを一年中休ませずに使う、昔ながらの知恵です。品種改良も盛んで、毎年のように新しい品種の米が生まれ、生産者が独自ブランドを立ち上げてインターネットで直接販売する動きも広がっています。効率化だけでなく、こうした工夫や個性も、2045年の農業の一部として残っています。


農家という仕事は、これからも消えません。ただし、「機械に任せる部分」と「人が決める部分」の境界線は、これからも少しずつ動いていきます。

厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)稲作農業者
農林水産省 スマート農業をめぐる情勢について(令和8年6月版)
農林水産省 スマート農業

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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