特別国会は当初、2026年7月17日が会期末とされていますが、会期を延長する検討が進められているとの報道があります。政府が今国会に提出した64本の法律案のうち、まだ成立していないものの一つが「予防接種法の一部を改正する法律案」です。今回はこの法律案の条文を、一つずつひらいてみます。
そもそも「予防接種」って法律上どう定義されているの?
予防接種法は、第2条でまず「予防接種」という言葉の意味を定めています。現行の条文では、予防接種とは「疾病に対して免疫の効果を得させるため、疾病の予防に有効であることが確認されているワクチンを人体に注射し、又は接種すること」とされています。
ポイントは、対象が「ワクチン」に限定されていることです。法律上「予防接種」と呼べるのは、あくまでワクチンを使ったものだけ、という建てつけになっています。
変わるのはこの一文
今回の改正案では、この第2条第1項にある「ワクチン」という言葉を「特定医薬品」という言葉に置き換えます。そのうえで、「特定医薬品」を新しく次のように定義します。
- 一 ワクチン
- 二 前号に掲げるもののほか、疾病に対して免疫の効果を得させる医薬品であって、その効果がワクチンと同程度に長期間持続するものとして厚生労働大臣が定めるもの
つまり「予防接種」の道具立てが、これまでの「ワクチンのみ」から「ワクチン+一定の条件を満たす医薬品」に広がる形です。
なぜ今、この定義を変える必要があるのか
背景にあるのは、単クローン抗体(モノクローナル抗体)を使った医薬品の広がりです。近年、あらかじめ体内に抗体そのものを投与することで、ワクチンと同じように長期間にわたって感染症を予防する薬が実用化されつつあります。
代表例が、乳幼児のRSウイルス感染症(呼吸器の感染症で、特に生後間もない赤ちゃんが重症化しやすいことで知られています)に対する抗体製剤です。すでに治療・予防の目的で薬事承認されているものがありますが、現行の予防接種法では「ワクチン」でなければ法律上の予防接種に位置づけられないため、自治体が実施主体となる定期接種の枠組みでは扱えませんでした。
今回の改正は、こうした抗体製剤を、将来的に定期接種の選択肢に加えられるようにするための土台となる条文の書き換えです。
定期接種に追加されるまでの流れ
ここで注意したいのは、今回の改正案が通っても、それだけで自動的にRSウイルスの抗体製剤が定期接種の対象になるわけではない、という点です。
改正案が定めているのは、あくまで「特定医薬品」という新しい枠組みを法律上つくることまでです。実際にどの医薬品をこの枠組みに含めるかは、今後、厚生労働大臣が個別に定める形になります。定期接種の対象疾病や使用するワクチン(特定医薬品)の決定は、これまでも厚生科学審議会での審議を経て行われてきており、今回も同様のプロセスをたどる見通しです。
施行日は、公布の日から起算して6か月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。
気をつけたいポイント
この法律案は、特定の医薬品を名指しで定期接種に加えるものではなく、あくまで「定期接種に使える医薬品の範囲」を法律上広げるための改正です。RSウイルスの抗体製剤が実際に定期接種の対象になるかどうか、対象年齢や費用負担がどうなるかは、この法律案の中には書かれておらず、今後の審議会や政令の議論を待つ必要があります。
条文の変更点自体はシンプルですが、その先にどんな医薬品が定期接種に加わっていくのか、今後の動きを追っていく価値がありそうです。
予防接種法の一部を改正する法律案 概要(厚生労働省)
予防接種法の一部を改正する法律案 案文・理由(厚生労働省)
第221回国会 法律案本文(衆議院)
最近の法律・条約(内閣法制局)
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