基本給が上がった月の給与明細を見て、桐生大輔(39・食品メーカー営業)は思わず二度見した。前年より8,000円多い。今年の春闘でベースアップと定期昇給が重なった結果だった。
「ついに上がったね」
妻の知子(37・ドラッグストアでパート勤務)にそう伝えると、素直に喜んでくれた。長男(小6)はサッカークラブの遠征費がかさむ時期で、長女(年長)は来春の小学校入学準備を控えている。ちょうどいいタイミングでの昇給だと、大輔は思っていた。
ところが、7月に入って家計簿をつけ直していた知子が、ふと手を止めた。
「今月、貯金に回せるお金、去年より少なくない?」
大輔は最初、聞き間違いかと思った。給料は上がったはずなのに、貯蓄額が減っている。そんなはずはない、と思いながら二人で家計簿を見比べてみることにした。
「昇給」の中身を厚労省のデータで確認する
厚生労働省が2026年5月22日に公表した「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年度分結果確報」によると、事業所規模5人以上の現金給与総額は月平均357,979円で、前年度比2.5%増だった。一般労働者に限れば469,071円で前年度比2.9%増となっており、桐生家の昇給幅もこの水準に近い。
問題は、この昇給分がそのまま暮らしの余裕につながっていない点にある。同じ発表では、消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が前年度比3.0%上昇したことが示されており、物価の上昇率が賃金の上昇率を上回った。その結果、実質賃金指数は前年度比0.5%減となり、4年度連続のマイナスとなった。
「給料は上がっているのに生活が楽にならない」という感覚は、気のせいではなく、統計の上でも裏付けられていたことになる。
家計簿:桐生家(夫39歳・妻37歳・子2人)
収入
- 夫の手取り給与:313,000円(前年度305,000円から昇給分を反映)
- 妻のパート収入:60,000円
収入合計:373,000円
固定費
- 家賃(賃貸2LDK):95,000円
- 通信費(スマホ2台・Wi-Fi):12,000円
- 生命保険・医療保険:15,000円
- 車1台(ローン・任意保険・駐車場):38,000円
- サブスクリプション(動画・音楽):5,000円
固定費小計:165,000円
変動費
- 食費:85,000円(前年比+7,000円)
- 日用品費:12,000円
- 水道光熱費:24,000円(前年比+2,000円)
- 交際費:10,000円
- 被服費:8,000円
- 長男のサッカークラブ・長女の習い事:15,000円
変動費小計:154,000円
特別費(年間支出の月割り)
- 車検・自動車税・タイヤ交換(年間約9万円の月割り):7,500円
- 家族旅行・帰省(年間約15万円の月割り):12,500円
- 子どもの学用品・行事費(年間約6万円の月割り):5,000円
特別費小計:25,000円
貯蓄
- つみたてNISA:20,000円(前年30,000円から減額)
支出合計:364,000円
収支:+9,000円
数字だけを見れば黒字は保っている。しかし、つみたてNISAの積立額は前年の30,000円から20,000円へと減額して、ようやくこの黒字を維持している状態だった。昇給分の8,000円は、そのほとんどが食費と水道光熱費の値上がり分に吸収されていた。
「上がった分、そのまま消えてる」
知子がつぶやいた言葉が、桐生家の実感をそのまま表していた。
「昇給の実感がない」構造
このねじれが起きる理由は単純ではない。賃金は主に春闘での交渉結果を反映して年1回程度のペースで改定されるのに対し、食料品などの物価は年間を通じて断続的に値上げが続く。昇給のタイミングと物価上昇のペースがそもそもかみ合っていないため、「上がった実感」より先に「物価高の実感」のほうが積み重なっていく。
桐生家のように子どもが2人いる世帯では、食費・教育費・子どもの活動費が支出の伸びをけん引しやすく、昇給分を吸収しやすい。来春には長男の中学進学と長女の小学校入学が重なり、教育費がさらに膨らむ見通しであることも、二人の不安として残っている。
「来年もこのペースで昇給してくれるなら安心だけど」
大輔はそう言いながらも、今年の昇給がどこまで続くのか、確信は持てずにいる。つみたてNISAを元の30,000円に戻せる日がいつ来るのか、桐生家はしばらく家計簿とにらめっこを続けることになりそうだ。
参考文献
※本記事はAIを活用して作成した、実在の統計にもとづくシミュレーション・ストーリーです。登場する家族・数値は説明のための一例であり、実在の個人・世帯を特定するものではありません。編集部は公的統計などの一次情報にもとづいて事実確認を行っています。詳しくは編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

