子育て支援金の名目で保険料が上がった日――国保通知書に見えた、児童手当とのねじれ

国保に新設された子ども・子育て支援金分のアイキャッチ画像 読み物(転落家族)

フリーランス編集者の夫・拓也(41)と、パート勤務の妻・沙耶(38)。小学3年の長男と、保育園年少の長女。国民健康保険(国保)に加入する4人家族です。

6月上旬、拓也は届いた国保料の納入通知書を開いて、見慣れない項目に気づきました。

「医療分」「支援分」「介護分」の下に、今年から新しく「子ども・子育て支援金分」という行が増えている。

「うちは子育て世帯なのに、子育て支援でお金取られるの?」

沙耶が明細を覗き込んで、少し複雑な顔をしました。

「全加入者対象」という新しい負担

厚生労働省の発表によると、2026年度(令和8年度)から、国民健康保険料の構成が従来の3区分(医療分・支援分・介護分)に加え、「子ども・子育て支援金分」を加えた4区分になりました。これは、こども家庭庁が所管する子ども・子育て支援金制度の財源の一部を、国保の保険料と合わせて徴収する仕組みです。

ポイントは、この支援金分が「子どもがいる世帯だけ」ではなく、国保に加入するすべての世帯・すべての加入者が対象になることです。所得割・均等割それぞれに率・額が上乗せされ、全国平均的にはおおむね所得割0.25〜0.34%程度、均等割は加入者1人あたり年1,110〜1,873円程度のレンジで、自治体ごとに確定しています。

拓也たちの世帯(大人2人・子ども2人)で編集部が試算すると、年間でおよそ7,000〜9,000円程度の負担増になる計算です。月にすればコーヒー1杯分ほどですが、拓也にとって気になったのは金額そのものより、「支援」という言葉と「負担」という現実の距離でした。

児童手当は増えている。でも、相殺されているわけではない

同じ2026年度、子育て世帯にとって嬉しいニュースもありました。児童手当の所得制限撤廃・高校生年代までの支給対象拡大です。拓也たちの家庭でも、児童手当の受給額自体は以前より増えています。

「でも、これって”もらった分から、また払ってる”ってことだよね」

拓也がそう言うと、沙耶は少し考えてから答えました。

「支援金分だけで見れば、うちが払ってる分は、児童手当で受け取ってる分よりずっと少ない。制度としては、うちは受け取る側のはずなんだけど」

「なのに、通知書に新しい項目が増えると、単純に”また負担が増えた”って感じちゃうんだよね」

制度の設計としては、子育て世帯は児童手当の拡充という形で恩恵の方が大きいはずです。それでも、家計簿に新しい支出項目が1行増えるという体験は、恩恵の実感とは別の場所で、静かに家計への圧迫感として積み重なっていきます。

リアル家計簿(月あたり・円)

支援金分新設前(2025年度・想定)

区分項目金額
収入夫の事業所得(手取り換算)220,000
収入妻のパート収入100,000
収入合計320,000
固定費住居費(賃貸)88,000
固定費国民健康保険料28,000
固定費国民年金保険料(2人分)34,000
固定費通信費12,000
変動費食費78,000
変動費保育料18,000
変動費日用品・被服費15,000
貯蓄つみたてNISA25,000
貯蓄学資保険10,000
支出合計308,000
収支差+12,000

支援金分新設後(2026年度)

区分項目金額
収入夫の事業所得(手取り換算)220,000
収入妻のパート収入100,000
収入児童手当増額分+8,000
収入合計328,000
固定費住居費(賃貸)88,000
固定費国民健康保険料(支援金分含む)28,700(+700)
固定費国民年金保険料(2人分)34,000
固定費通信費12,000
変動費食費82,000(物価高分)
変動費保育料18,000
変動費日用品・被服費15,000
貯蓄つみたてNISA25,000
貯蓄学資保険10,000
支出合計312,700
収支差+15,300

数字だけ見れば、この家庭の家計は児童手当の増額分もあって、むしろ改善しています。それでも拓也の手元には、「支援金分」という新しい行が増えた通知書が残ります。

【コラム】「取られている感」はどこから来るのか

行動経済学でよく指摘されるのは、人は「得たもの」より「失ったもの」を強く意識するという傾向です。児童手当の増額は年に数回、まとめて振り込まれます。一方、保険料の値上げは毎月の通知書やコンビニ払いの中で、じわじわと目に入ります。差し引きでは家計にプラスでも、「取られる」場面の回数と可視性の方が、体感としては勝ってしまう。制度の設計上の恩恵と、生活者の実感のあいだには、こうした構造的なズレがあるのかもしれません。

拓也は通知書を財布にしまいながら、こうつぶやきました。

「損してるわけじゃないってわかってても、この1行が増えたことは、たぶん来年も覚えてると思う」

厚生労働省「国民健康保険制度」
こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」
官報(国民健康保険法施行令の一部を改正する政令)

※本連載はフィクションです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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