AI時代 2045年の仕事内容「施設警備員」編――モニターを見張る仕事は消えても 声をかける仕事は消えない

2045年の仕事

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

夕方の仕事案内所は、外の通りより少し暗いくらいでした。自動ドアが開いて、作業用のジャンパーを腕にかけた男性が入ってきました。

「予約していた森下です」

「どうぞ、こちらへ」ミチルさんは机の端の椅子を引きました。

森下航平は腰を下ろしてから、腕にかけていたジャンパーを膝の上でたたみ直しました。胸のあたりに、会社の名前を外した跡が残っていました。

「昨日まで、これを着ていました」

「倉庫のお仕事でしたね」

「はい。棚から荷物を取って、箱に入れる仕事です」森下は言いました。「取るのも入れるのも機械がやります。人の枠が、去年の半分になりました」

「それで、次は何をお考えですか」

「警備です」森下は言いました。「求人が多いので。ただ、見張るだけなら、カメラのほうが向いていますよね」森下は自分の手のひらを見ました。「倉庫と同じことが、また起きるんじゃないかと思うんです」

「順番に話しましょう」ミチルさんは受付票を横に寄せました。

2045年時点のAI代替率

ミチルさんは机の上で手を組みました。

「この仕事、正直に言いますね」

2045年時点のAI代替率

(編集部予測)

60%

「60%です」ミチルさんは言いました。「あなたの心配は、半分は当たっています」

森下は数字を見たまま、少しのあいだ黙っていました。

「残りの40%は、何ですか」

「装置がいちばん苦手にしているところです」ミチルさんは言いました。「2026年まで戻りますね」

2026年、この仕事の現在地

2026年の時点で、この仕事は「施設警備員」と呼ばれていました。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、しごとの内容を「警備会社に雇用され、顧客の事務所や工場、商業施設などに常駐等又は巡回により、事故や火災、不法侵入などの、防止、早期発見、事故の対応を行う」と説明しています。

主な業務は、防災監視、防火設備の日常巡視、防犯監視、巡回、受付と入退出の管理、鍵の管理、そして非常事態への対応でした。

同サイトによると、平均年収は379.9万円、平均年齢は53.8歳でした。いずれも2025年(令和7年)賃金構造基本統計調査の値です。就業者数は37万4690人(2020年・令和2年国勢調査)、労働時間は月167時間でした。

目を引くのは、有効求人倍率(1人の求職者に対して何件の求人があるかを示す数字)です。2024年度(令和6年度)の値で4.03。求職者1人に対して4件を超える求人が出ていました。

入職に学歴や資格は必要とされていませんでした。ただし警備業法により、18歳未満の人などは就くことができません。入職後は20時間以上の新任教育を受けて警備員登録をし、現場に出たあとも半年ごとに8時間以上の教育を受けることが義務づけられていました。

そして、2045年の姿を決めることになった特徴が、もうひとつあります。警備員には、警察官のような公的な権限がありません。job tagは、認められているのは依頼主から任された建物を管理する権限と、ふつうの人と同じ立場でできる現行犯逮捕だけだと説明しています。命令も尋問もできない。できるのは、声をかけることでした。

2045年、何がこの仕事を変えたか

最初に消えたのは、モニターの前に座っている時間です。カメラ映像の常時監視は装置に移り、人の目が何時間もつかを気にする必要はなくなりました。

巡回の記録と日報も自動になり、入退館の照合も来た人の顔と歩き方で処理されます。建物のなかは、決まった経路であれば巡回ロボットが回ります。ここまでが、代替された60%のおおよその中身です。

それでも人の数が減りきらなかった理由は、装置が出すものの性質にあります。装置が出すのは、起きたことの通知です。扉が開いた、人が倒れた、煙が出た。すべて、起きてから鳴ります。

警備という仕事の値打ちは、その手前にありました。装置は、まだ何も起きていない状態を異常として扱えません。扱ってしまえば、建物じゅうが鳴りっぱなしになるからです。

もうひとつは権限です。2026年の時点で人間の警備員にも与えられていなかった公的な権限は、2045年になっても装置に与えられませんでした。近づいて事情を聞くのは、その場にいる人の役目のままです。

ある一日

「ちょうど先週、こんな方の話を聞きました」ミチルさんは言いました。

午後3時40分、芝田聡は商業施設の防災センターで引き継ぎを受けています。56歳で、この仕事を18年続けています。

装置がこの日の午前中に出した通知は14件です。11件は通路に置きっぱなしの台車、2件は搬入口の扉の開けっぱなし、1件は駐車場の車を人と読み違えた分でした。

芝田はリストを最後まで送ると、モニターの前を離れて館内に出ました。

「見終わったあとが仕事なんです」

3階の通路で、芝田は足を止めました。ベンチに座っている年配の女性が、膝の上の紙袋を2回、3回と持ち直しては、そのたびに置いています。装置は何も鳴らしていません。

「お荷物、下までお運びしましょうか」

女性は顔を上げて、少し笑いました。娘の家に行く途中で、荷物が思ったより重く、立ち上がるきっかけをつかめずにいたそうです。芝田は台車を取ってきて、15分ほどかけてエレベーターまで一緒に歩きました。

この15分は、どの記録にも残りません。転んだわけでも、倒れたわけでもないからです。

閉館の30分前、芝田は搬入口の裏に回りました。非常口の前に、たたんだ段ボールが積み上げてあります。芝田は業者に声をかけて、その場でどかしてもらいました。

「これも鳴らないんです」芝田は言いました。「非常口をふさいでも、火が出るまでは何も起きていないことになりますから」

夜9時、閉館後の点検が始まります。巡回ロボットが1階から順に上がるのを画面で追いながら、ロボットが通らない機械室と屋上は芝田が自分の足で回りました。装置の記録に残った異常は、結局14件のままです。

消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替カメラ映像の常時監視/巡回記録と日報の作成/入退館の受付と本人確認の照合/防火設備の点検データの収集/録画の見返し
AIと協働通知が出た異常の1次的な切り分け/巡回ルートの組み立て/来訪者の案内/設備の不具合箇所の特定
人間に残るまだ何も起きていない人に声をかけること/通知が出ていない場所へ自分の足で行って確かめること/非常時に人を出口まで連れて行くこと/制服を着てその場に立ち続けること

それでも人間がやる価値

この仕事の核心は、異常を見つけることから、何も起きていないうちに声をかけることへ移りました。

見つけるだけなら、装置のほうが速く、疲れず、見落としもしません。しかし装置が見つけられるのは、すでに起きたことだけです。荷物を持ち直している人、非常口の前の段ボール。どれも、その時点では何も起きていません。

起きなかったことは、記録に残りません。数字にもなりません。防いだ分を数えられないので、2026年の警備は費用の欄にしか出てこなかったのです。

2045年に値打ちが見直されたのは、装置がそろったあとで、防げる人だけが足りないと分かったからです。通知を読んだあとに歩き出して、知らない人に声をかけられるかどうか。それが、残った仕事の中身になりました。

もうひとつ残ったのが、逃げる方向を決めて人を連れて行く仕事です。非常時に案内の音声を流すことは装置にもできますが、動けなくなった人の横に立って、腕を支えて出口まで歩くことはできません。

2045年の年収

この職業の年収は、下支え型で動いています。人が足りない状態が続いたため下側が落ちず、専門性で上乗せの幅が変わる形になりました。

  • 2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)
  • 機械警備の運用と防災の資格を持ち、現場に行くかどうかの判断を任される層:620万円〜
  • 常駐と立ち番が中心の層:380万円前後
  • 参考・2026年の平均:379.9万円(賃金構造基本統計調査)

分かれ目は、勤めた年数ではありません。装置が出した通知を切り分けて、どれに自分の足で行くかを決められるかどうかです。

2024年度(令和6年度)に有効求人倍率が4.03だったことは、2045年まで効いています。装置が入って業務量が減っても、募集の口のほうが人より多い状態は変わりませんでした。代替率60%のわりに待遇が下がっていない理由は、ここにあります。

この仕事を目指すきみへ

森下はメモを取る手を止めました。

「倉庫では、人に話しかけることがほとんどありませんでした」

「これからは、そこが仕事になります」ミチルさんは言いました。「いまから積むといいものが、3つあります」

ひとつめは、知らない人に声をかける練習です。困っていそうな人を見つけたときに、口が動くかどうか。これは性格ではなく、回数で決まります。2045年の現場で最初につまずくのは、体力ではありません。声が出るかどうかです。

ふたつめは、法令の知識です。警備員にできることの範囲は、2026年の時点で細かく決まっていました。範囲を正確に知っている人だけが、迷わずに声をかけられます。

みっつめは、応急救護と消火と避難誘導の実技です。年に何度も使う技能ではありません。ただ、使う日に手が動くかどうかで、その建物にいる人の生死が変わります。

「その3つです」ミチルさんは言いました。「体力だけで残れる仕事では、なくなりました」

森下は膝の上のジャンパーを両手で押さえて、「明日、現場の見学に行ってきます」と言いました。

「行って、立ってみてください」ミチルさんは言いました。「立っているだけの時間が、どう見えるか。それで向き不向きが分かります」

【コラム】60代と70代で半数近くを占めていた職業

2026年の時点で、この職業には年齢の偏りがありました。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、2024年時点で60代が15万3111人で26.0%、70代が12万2919人で20.9%を占め、両方あわせて全体の半数近くになると説明しています。

定年後に始める人が多く、学歴も資格も要らなかったことが背景にあります。2045年になると、立ちっぱなしの負担が減った分、通知を読んで判断する場面が増え、長く続けてきた人の経験は判断の側で効くようになりました。

なお、2024年度(令和6年度)の月額求人賃金は全国平均で20.5万円でした。募集の段階で示される額は高くなく、それでも4.03倍の求人が埋まりきらなかったのです。この関係が変わったのが、2045年の変化のひとつです。

まとめ

  • 施設警備員のAI代替率(編集部予測)は60%
  • 2026年の平均年収は379.9万円、平均年齢53.8歳、就業者数37万4690人、労働時間は月167時間、有効求人倍率4.03(job tag)
  • カメラ映像の監視と記録づくりは装置へ移り、何も起きていないうちに声をかける仕事が人間に残った
  • 2045年の年収は下支え型。判断を任される層は620万円〜、常駐と立ち番が中心の層は380万円前後
  • いまから積むとよいのは、知らない人に声をかける練習、法令の知識、応急救護と消火と避難誘導の実技

厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)施設警備員

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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