AI時代 2045年の仕事内容「商業カメラマン」編――きれいな絵をつくる仕事は消えても そこにあったと示す仕事は消えない

2045年の仕事

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

昼過ぎの仕事案内所は、いちばん静かな時間でした。ブースの仕切りの向こうで足音が止まり、少ししてから、肩に細長い鞄をかけた女性が顔を出しました。

「予約した三宅です」

「どうぞ、おかけください」ミチルさんは机の上の紙束を端に寄せました。

三宅千裕は椅子に座ると、鞄を膝の横に立てて置きました。中身が硬いものだと分かる置き方でした。

「それ、カメラですか」

「はい」三宅は少し笑いました。「持ってきても意味がないんですけど、持っていないと落ち着かなくて」

三宅はいま、食品会社の事務の仕事をしています。学生のころに写真部にいて、いまも週末に撮り続けている。撮った写真を人に頼まれて渡すことも、年に何度かある。それを仕事にできないかと考えて、ここに来たと言いました。

「まわりには止められます」三宅は言いました。「写真なんて、いまは指示を出せば出てくるじゃないですかって」

「出てきますね」ミチルさんは言いました。「わたしの机の上の資料の絵も、半分はそうです」

「じゃあ、やっぱり」

「その話は、順番にしましょう」

2045年時点のAI代替率

ミチルさんは机の上で手を組みました。

「この仕事、正直に言いますね」

2045年時点のAI代替率

(編集部予測)

70%

「70%です」ミチルさんは言いました。「高いほうです。あなたが止められる理由も、この数字を見れば分かります」

三宅は数字を見つめたまま、少し黙っていました。

「でも、ゼロではないんですね」

「ゼロではありません。そして、残った30%のほうが、2026年のころより値段がついています」

2026年、この仕事の現在地

2026年の時点で、この仕事は「商業カメラマン」と呼ばれていました。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は、しごとの内容を「主に広告・宣伝用に、依頼者の要望を受けて、特定の人物や商品、自然や風景などの写真を撮影する」と説明しています。

同サイトによると、平均年収は492.2万円、平均年齢は39.8歳でした。いずれも2025年(令和7年)賃金構造基本統計調査の値です。就業者数は6万9170人でした(2020年・令和2年国勢調査)。これは国勢調査の「写真家,映像撮影者」という区分の集計で、商業カメラマンだけを数えた人数ではありません。労働時間は月159時間です。

特徴的だったのは、就業形態です。job tagの就業者アンケートでは、この職業で多いと感じる働き方として、85.5%が自営・フリーランスを挙げていました(複数回答のため、選択肢の合計は100%を超えます)。会社に勤めて撮る人より、個人で仕事を受けて撮る人のほうが多い職業だったのです。

そして、有効求人倍率(1人の求職者に対して何件の求人があるかを示す数字)は0.42でした。2024年度(令和6年度)の値です。1を大きく下回るということは、撮りたい人の数に対して、雇う口が足りていなかったということになります。

特別な学歴や資格は要りませんでした。専門学校で学び、助手として現場に入り、数年で一人前と認められる。入口は広く、そのぶん中で分かれる仕事でした。

2045年、何がこの仕事を変えたか

2045年、広告や宣伝に使う「きれいな絵」は、ほとんどが生成されています。存在しない部屋に、存在しない光を当てて、実物と見分けのつかない画像を出すことができます。カタログの定型カットは、商品の形状データさえあれば撮影そのものが要りません。

その結果、2026年に商業カメラマンが時間を使っていた作業の多くが、装置の側へ移りました。切り抜き、色の調整、背景の差し替え。これらは、もう人が座って行う作業ではありません。

一方で、生成が日常になったことで、別の需要が生まれました。「これは実際にあったのか」を示す需要です。

2045年の広告には、画像が生成されたものか、実際に撮られたものかを示す表示が付いています。実際に撮られたことを示すためには、いつ、どこで、誰が撮り、そのあと誰の手を経てきたかという来歴(らいれき・その画像がたどってきた記録)が必要になりました。この来歴は、撮影の現場に人が立ち会っていなければ成立しません。

食品の実物、店舗の内装、人の顔。「本当にこれです」と言いたい場面ほど、生成では代われなくなりました。撮る技術ではなく、その場にいたという事実のほうに、値段がついたのです。

ある一日

日野奏太は38歳、この仕事を14年続けています。

午前6時40分、日野は郊外の農産物の集荷場にいました。この日の依頼は、あるスーパーの秋の販促に使う野菜の写真です。畑から届いたばかりの状態を、届いた場所で撮ってほしい、という条件が付いていました。

機材は3つのケースに収まっています。2045年の照明は軽く、電源も長く持ちますが、運ぶのは日野です。ケースを台車に乗せて、集荷場の東側の壁際に置きました。壁の高いところに窓があり、朝の光がそこから斜めに入ります。

最初の30分、日野はカメラを構えませんでした。台車に腰かけて、窓から入る光が床のどこまで届くかを見ていました。7時を過ぎると、光の帯は少しずつ奥へ動きます。日野はその動きを目で追い、コンテナを置く位置を集荷場の担当者と相談しました。

「ここだと、影が濃すぎませんか」担当者が聞きました。

「濃いほうがいいんです」日野は言いました。「濃いと、朝に撮ったことが分かるので」

撮影そのものは1時間ほどで終わりました。そのあと日野が時間をかけたのは、記録のほうです。撮影の日時、場所、立ち会った人、使った照明、加工をどこまで行うか。これらを1件ずつ入力し、依頼主と集荷場の担当者に、その場で確認してもらいます。

「この作業がいちばん長いです」日野は言いました。「撮るのは、正直、昔より短くなりました」

午後は都市部のスタジオに移り、化粧品の広告に使う人物の撮影に入りました。ここでも日野は、最初の20分をカメラなしで過ごしました。相手は撮られ慣れていない社員の1人で、椅子に座った姿勢が固まっていました。日野は照明の位置を変えながら、前日の天気の話をしていました。

表情がゆるんだところで、日野は初めてカメラを持ち上げました。

「装置は、いい顔を作れます」日野はあとでそう言いました。「でも、この人のいい顔は作れないんです」

消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替商品の切り抜きと色の調整/背景の差し替え/カタログ用の定型カット/撮影プランの下書きと絵コンテ
AIと協働ライティングの設計/大量カットの選別/レタッチの仕上げ/納品データと来歴の整理
人間に残る現場に立ち会って被写体の状態を確かめること/撮った日と場所を記録として残すこと/人の緊張をほどいて表情を待つこと/その場で起きた予定外のことに合わせて撮り方を変えること

それでも人間がやる価値

この仕事の核心は、きれいな絵をつくることから、そこにあったと示すことへ移りました。

きれいな絵をつくるだけなら、装置のほうが速く、安く、失敗もしません。しかし装置は、その場にいることができません。実際にその商品が、その日、その場所にあったという事実は、立ち会った人がいてはじめて記録になります。

生成された画像があふれるほど、実際に撮られた画像の価値は上がりました。2026年には「写真は事実の記録である」ことが当たり前すぎて、値段がつきませんでした。当たり前でなくなったことで、はじめて値段がついたのです。

もうひとつ残ったのが、人の表情を待つ仕事です。装置は理想的な笑顔を作れますが、その人の笑顔にはなりません。誰の顔でもない笑顔と、その人の顔とを、2045年の受け手は見分けます。見分けられてしまうからこそ、待つ人が必要になりました。

2045年の年収

この職業の年収は、二極化で動いています。実際に立ち会って記録を残す側に回れた層と、生成でも置き換えられる領域に残った層とで、受け取る額がはっきり分かれました。

  • 2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)
  • 現場に立ち会い、来歴の記録まで引き受ける層:800万円〜
  • 生成でも置き換えられる領域に残った層:300万円前後
  • 参考・2026年の平均:492.2万円(賃金構造基本統計調査)

分かれ目は、撮る腕そのものではありません。記録を正確に残せるか、そして依頼主に対してその記録の責任を負えるかどうかです。撮影の腕が高くても、来歴を管理しない人の仕事は、生成と同じ扱いになりました。

2024年度(令和6年度)に有効求人倍率が0.42だったことは、2045年にも尾を引いています。撮りたい人は多く、依頼の口は限られる。その構造は変わっていません。変わったのは、限られた口が「実在の記録」に集まったことです。

この仕事を目指すきみへ

三宅はメモを取る手を止めて、ミチルさんを見ました。

「わたしがやってきたのは、たぶん、前半のほうです」

「きれいに撮るほう、ですか」

「はい。うまく撮れた、で終わっていました」

ミチルさんは、机の端に寄せた紙束をそろえました。

「わたしも昔、その日に持っていくものを、全部自分で決めて運ぶ仕事をしていました」ミチルさんは言いました。「何を持たないかで、その日の出来が決まるようなところがあって。だから、荷物の話になると、いまでも他人ごとに思えないんです」

「持たない、ほうですか」

「持てる量は決まっていますから」ミチルさんは紙束を置いて、話を戻しました。「あなたの荷物の話です。いまから積むといいものが、3つあります」

ひとつめは、記録を残す習慣です。いつ、どこで、誰と撮ったか。2026年の時点では自分のためのメモにすぎませんが、2045年にはこれが商品そのものになります。撮った直後に書き残せる人と、あとでまとめようとして忘れる人の差は、20年かけて年収の差になりました。

ふたつめは、人と話す時間の作り方です。撮る前の20分で相手の緊張がほどけるかどうかは、機材では決まりません。何を話すかより、いつカメラを持ち上げないかを知っていることのほうが効きます。

みっつめは、権利と契約の知識です。誰が撮り、どこまで使ってよく、加工をどこまで認めるか。来歴が価値になる時代には、この取り決めが仕事の中身そのものになります。数字と文章が苦手なままでは、後半の側に回れません。

「その3つです」ミチルさんは言いました。「撮る腕は、これまでどおり磨いてください。ただ、磨いた腕だけでは、値段がつきにくくなります」

三宅は膝の横のケースに手を置きました。

「今日の帰り、撮ったら、いつどこで撮ったか書いてみます」

「1日目としては、じゅうぶんです」

【コラム】多くが自分で仕事を取っていた職業

2026年の時点で、この職業のいちばん大きな特徴は、勤め先ではなく就業形態にありました。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、商業カメラマンは、多いと感じる働き方として85.5%が自営・フリーランスを挙げていました(複数回答)。

同サイトは、フリーの場合は契約料や使用料、著作権料で報酬を得ると説明しています。つまりこの職業は、2026年の時点ですでに「撮った画像をどう使わせるか」を自分で決める仕事でした。来歴と権利が価値になる2045年の構造は、突然現れたものではなく、この職業がもともと持っていた性質が前に出てきたものです。

なお、2024年度(令和6年度)の月額求人賃金は全国平均で23.2万円でした。平均年収492.2万円との差は、求人として出る仕事と、個人で受ける仕事とで報酬の作り方が違っていたことを示しています。この差は2045年にさらに開きました。

まとめ

  • 商業カメラマンのAI代替率(編集部予測)は70%
  • 2026年の平均年収は492.2万円、平均年齢39.8歳、就業者数6万9170人、有効求人倍率0.42、自営・フリーランスを挙げた回答が85.5%(job tag・複数回答)
  • きれいな絵をつくる作業は生成へ移り、その場にあったと示す仕事が人間に残った
  • 2045年の年収は二極化。現場に立ち会い来歴を引き受ける層は800万円〜、生成で置き換えられる領域に残った層は300万円前後
  • いまから積むとよいのは、記録を残す習慣、撮る前に人と話す時間の作り方、権利と契約の知識

厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)商業カメラマン

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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