工場や倉庫、ビルの管理に関わったことがある人なら、モノタロウという名前を見たことがあるはずです。工具、ネジ、作業着、掃除用具。現場で使う細かいものを1個から買える通販サイトで、テレビCMの桃太郎を覚えている人もいるかもしれません。
そのモノタロウの議決権の半分を持っているのは、アメリカの会社です。名前をW.W.グレンジャー(W.W. Grainger, Inc.、ティッカー:GWW)といいます。S&P500の構成企業でありながら、日本ではほとんど名前を聞きません。そしてこの会社にとって、日本は米国に次ぐ2番目に大きな市場です。
何をしている会社か:現場が切らすと困るものを、まとめてそろえる
グレンジャーが扱うのは、MRO(Maintenance, Repair and Operating)と呼ばれる資材です。日本語では間接資材と訳されます。製品そのものの材料でも、生産ラインの機械でもありません。その工場やビルを動かし続けるために必要な、脇役の品々のことです。
年次報告書(Form 10-K)は、商品の分類として安全・防犯用品、運搬と保管の用品、ポンプと配管、清掃と保守の用品、金属加工用品と手工具などを挙げています。2025年12月期は、そのどれもが売上の20%を超えていません。特定の分野に強い会社というより、幅の広さそのものが商品になっています。
仕入先は5000社を超え、世界の物流センターと支店に150万点以上を在庫しています。
誰が買っているか:市役所も学校も、ここで買う
同じ年次報告書の顧客業種別の内訳では、全社の売上のうち製造業が30%、官公庁が15%、卸売が9%、商業サービスが8%、建設業者が7%、医療が6%となっています。
注目したいのは官公庁です。北米で営業担当がつく対面型の部門に限ると、この比率は19%に上がります。アメリカでは、市役所も学校も軍の基地も、蛍光灯や軍手や台車をグレンジャーから買っているということです。年次報告書のリスク要因に、災害や緊急事態の宣言時に価格を規制する法律が挙げられているのも、この会社が生活基盤の裏側にいることを示しています。
2つの売り方:対面は約200万点 ネット通販は約2900万点
グレンジャーの決算では、事業が2つの部門に分けて報告されています。
ひとつは北米の対面型の部門です。取扱点数は約200万点。245の支店と、顧客の敷地内に置かれた75の拠点を持ち、翌日配送に加えて支店での当日引き取りにも対応します。KeepStockという在庫管理サービスでは、顧客の現場に自社の棚を置き、減った分を補充します。
もうひとつがネット通販の部門です。米国のZoroが約1300万点、日本のモノタロウが約2900万点。こちらは営業担当をつけず、サイトの使いやすさと価格の見やすさで小規模な事業者を集める売り方です。
つまり本体が約200万点で、日本の子会社が約2900万点。取扱点数だけを見れば、子会社のほうが桁ひとつ多いことになります。
自社ブランドも持っています。DAYTON、CONDOR、WESTWARD、SPEEDAIRE、TOUGH GUY、LUMAPRO、AIR HANDLERといった名前で、米国の在庫品売上の約19%を占めます。
なお決算上は、この2つの部門のほかに「その他」の区分もあります。2025年12月期の売上高は3億2400万ドルで、中身は年内に売却した英国のクロムウェルと、グループ内向けの保険会社です。
強み:安さではなく、探す時間を売っている
工具1本を買うだけなら、どこで買っても大差ありません。グレンジャーが選ばれる理由は、その1本が足りなくなった瞬間にあります。
ラインが止まったとき、現場が必要としているのは最安値ではなく、今日届くことです。グレンジャーは物流センターの自動化で翌日配送を成り立たせ、支店には地域ごとに需要の違う在庫を置いています。顧客が減らしているのは商品の値段ではなく、探して発注して届くまでの時間と手間です。年次報告書が自社の目的を「世界を動かし続けること」と表現しているのは、この立ち位置を指しています。
日本との関係:売上の1割強が日本から
2025年12月期の国・地域別の売上高は、米国が144億4100万ドル、日本が21億7300万ドル、カナダが6億8300万ドル、その他の国が6億4500万ドルでした。全社の179億4200万ドルのうち、およそ12%が日本からの売上です。単一の国としては、米国に次ぐ2番目の市場になります。
その日本事業を担っているのがモノタロウです。モノタロウの沿革によれば、設立は2000年10月19日。住友商事と米国グレンジャー社の出資により、大阪で生まれました。当時の社名は住商グレンジャーです。2006年に社名をMonotaROに変えて東証マザーズに上場し、2009年に東証一部、2022年からプライム市場に移りました。2025年12月31日現在、グレンジャー・グローバル・ホールディングスが50.33%を保有する筆頭株主です。
グレンジャー側の年次報告書にも、日本の存在感は表れています。主要な施設の一覧に載っているのは、米国の物流センターと支店、そして日本の物流センター4か所。合計約338万平方フィート、およそ31万平方メートルです。
さらに2025年、グレンジャーは英国市場から撤退しました。12月17日に英クロムウェルの売却を完了し、Zoroの英国事業も閉じています。海外で残った柱は、日本です。

アメリカ人にとっては:分厚いカタログを配り続けた会社
グレンジャーはCMで知られる会社ではありません。アメリカ人にとってのこの会社は、長く「あの分厚いカタログ」でした。
1998年12月期の年次報告書には、当時の姿が残っています。産業向けカタログの掲載点数は8万1000点超、仕入先は1000社超。そして印刷部数は約200万部でした。最新版は1999年1月に発行されたと書かれています。支店は全50州に349か所あり、報告書は「米国の事業所の大半から20分以内」と説明しています。1日あたりの取引はおよそ9万8100件、1支店の平均は従業員15人と1日約280件でした。
町工場の事務所にも、ビルの管理室にも、電話帳より厚いカタログが置いてある。それがアメリカでのグレンジャーの姿でした。そのカタログは今ではウェブに移り、支店の数も245まで絞られています。紙の束が検索窓に置き換わるまでの流れが、1998年と2025年の年次報告書を並べるだけで見えてきます。
トリビア:雑談で使える一言
- 会社としての設立は1928年、イリノイ州です。紙のカタログの時代からネット通販の時代までを、同じ社名で通しています。
- 本社はイリノイ州レイクフォレスト。世界の従業員は約2万5000人で、その約90%が北米、約10%がアジアにいます。グレンジャーのアジアの事業は、モノタロウとその海外子会社です。
- 英国はたたんで日本は残した会社、という言い方もできます。2025年の撤退で、グレンジャー本体の海外事業は日本が柱になりました。ただしモノタロウ自身は韓国・インドネシア・インドにも子会社を持っており、グループの足はアジアへ伸びています。
- 雑談で使える一言はこれです。「モノタロウの親会社はアメリカの上場企業で、その会社にとって日本はアメリカに次ぐ2番目の市場なんですよ」
インデックス投信でS&P500を買っている人は、名前を知らないままこの会社の株主になっています。そして日曜大工の道具をモノタロウで買うたび、その売上の一部はイリノイ州の親会社の決算に乗っています。
これであなたは、500社のうち6社を知りました。
リファレンス
- W.W. Grainger, Inc. Form 10-K(2025年12月期)/米国証券取引委員会 EDGAR
- W.W. Grainger, Inc. Form 10-K(1998年12月期)/米国証券取引委員会 EDGAR
- 株式会社MonotaRO「沿革」
- 株式会社MonotaRO「会社概要」
- 株式会社MonotaRO「株主の状況」(2025年12月31日現在)
- W.W. Grainger, Inc. 公式サイト
※この記事は特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。数字はすべて公表済みの年次報告書と公式資料に基づいており、将来の業績や株価を予想するものではありません。
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