※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。
仕事案内所の窓口に、高橋美月(たかはし みづき・21歳)は少し早く着いた。予約時間まで、まだ十分ある。
壁の求人ボードをぼんやり眺めていると、隣のブースから声がかかった。
「早いですね。お茶でもどうぞ」
ミチルさんだった。湯気の立つ湯呑みを差し出しながら、美月の履歴書に目を落とす。「大学4年生……民間企業、もう内定が出ているんですね」
「はい。食品メーカーです。でも」
美月は湯呑みを両手で包んだ。
「小学生のとき、駅前で迷子になったことがあって。泣いていたら、交番のお巡りさんが一緒に親を探してくれたんです。それがずっと頭に残っていて。今から警察官を目指すのは、遅すぎますか」
「遅くはないですよ。でも」
ミチルさんは少し間を置いた。
「この仕事、正直に言いますね」
AI代替率
(編集部予測)
25%
「2045年、警察官の仕事の25%はAIとロボットがやっています。パトロールも、防犯カメラの見張りも、書類の下書きも。残った75%とは――」
2026年、この仕事の現在地
全国の警察官(都道府県警察)は259,644人(総務省・令和6年地方公務員給与実態調査、令和6年4月1日時点)。平均年齢は39.3歳です。
仕事の中身は、厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、事件現場での対応や証拠集め、容疑者の取り調べ、パトロールや巡回連絡、交通違反の取り締まり、大きな催し物の警備など多岐にわたります。交番に配属された後、本人の希望や適性に応じて刑事・生活安全・交通・警備などの専門分野に進んでいく仕組みです。
給与面では、平均給与月額(給料と諸手当の合計、賞与を除く)は475,875円。このうち諸手当の内訳を見ると、超過労働的手当(時間外勤務手当や夜間勤務手当など)が74,144円と大きな割合を占めており、不規則な勤務体系がうかがえます。ここに期末手当・勤勉手当(いわゆるボーナス)が加わるため、実際の年収はさらに上乗せされます。
2045年、何がこの仕事を変えたか
2045年の警察は、防犯カメラとドローンによる常時監視網が整備され、街の異変を検知するとAIが自動で通報・記録する体制が標準になっています。パトロールのルート決めや巡回連絡の記録づくりといった定型業務は、大部分が支援ソフトに置き換わりました。
一方で、法律の分野は「AIの判断に対する人間の最終承認」が義務づけられている高リスク領域のひとつです。容疑が固まったところで逮捕に踏み切る判断、取り調べで相手の言葉の奥にあるものを読み取る作業、暴れる人や抵抗する人と実際に対峙する場面は、依然として人間の警察官の仕事として残っています。監視の目はAIが増やしても、「現場に駆けつけて、決断し、対応する」役割は人間から離れませんでした。
ある一日
「ちょうど先週、こんな方の話を聞きました」
ミチルさんが語り始めたのは、地域課に配属されて3年目の巡査、井上蓮(いのうえ れん・26歳)の一日だった。
朝、交番に出勤すると、AIが夜間の巡回データをすでに整理し終えている。不審な滞留が多かった路地の一覧、住民から寄せられた相談の要約。蓮はそれに目を通しながら、今日回るルートを自分の判断で少し変える。データにはまだ表れていない、路地裏の空き店舗が最近気になっていたからだ。
昼過ぎ、無線が鳴った。高齢者が道に迷っているという通報。AIカメラが位置を特定し、最短ルートを蓮のタブレットに表示する。駆けつけると、女性は不安げに立ち尽くしていた。名前を呼びかけ、ゆっくり話を聞く。データが教えてくれるのは「どこにいるか」までで、「どう声をかけるか」は蓮自身の仕事だった。
消えた業務・残った業務
| 分類 | 業務内容 |
|---|---|
| AIに代替 | 防犯カメラの常時監視、定型的なパトロールルートの作成、巡回連絡記録の下書き、交通違反の自動検知 |
| AIと協働 | 事件現場の初動対応(AIが位置・状況を提示、人が動く)、証拠の整理・分析支援 |
| 人間に残る | 逮捕の判断、取り調べ、暴れる相手・抵抗する相手への対応、住民との信頼関係づくり、被害者への配慮ある対応 |
それでも人間がやる価値
警察官の仕事の核心は、「決めて、動いて、責任を負う」ことです。
AIは「怪しい」を見つけるのは得意でも、「逮捕する」と決めて実際に手をかけるのは人間の役目のままです。相手が涙ながらに訴える理由、抵抗する背景にある事情――そうした人の機微を読み取り、それでも法にもとづいて判断を下すという重さは、機械には引き受けられません。迷子の女性が最後に求めていたのも、正確な位置情報ではなく、隣に立って一緒に歩いてくれる人間でした。
2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)
警察官は自営や独立という形のない公務員のため、他の職業のような二極化フレームではなく、消防士編と同じ「階級型フレーム」で描きます。階級や専門技能に応じて積み上がっていく仕組みです。
- サイバー犯罪捜査・国際犯罪捜査などの専門技能を身につけ、昇任試験を重ねて階級を上げた層:750万円前後
- 交番・現場配属が中心の一般隊員層:520万円前後
- 参考・2026年の平均給与月額(賞与除く):475,875円(総務省・令和6年地方公務員給与実態調査)
この仕事を目指すきみへ
「遅すぎることはないですよ」
ミチルさんは湯呑みを置いた。
「警察官に一番必要なのは、頭の回転の速さより先に、目の前で困っている人にちゃんと向き合える体力と胆力です。あなたが交番のお巡りさんに助けてもらった、あの記憶。それは、あなたがこれから誰かにとっての『あの記憶』になれる、という話でもあります」
美月はうなずいた。まだ迷いは消えていない。それでも、少しだけ前を向けた顔をしていた。
【コラム】日本の交番制度は、なぜ世界から注目されるのか
「交番」という、地域に密着した小さな拠点を置く仕組みは、日本発祥の制度として知られています。海外の警察組織が視察に訪れることも多く、「Koban」という言葉のままシンガポールやブラジルなど複数の国・地域で導入例があります。パトロールや相談対応をAIがどれだけ支援しても、この「歩いて行ける距離に、顔の見える警察官がいる」という発想そのものは、2045年になっても変わらない日本の警察の土台であり続けています。
2045年、防犯カメラとAIが街中を見守るようになっても、駆けつけて、決めて、責任を負う仕事は消えませんでした。AI代替率(編集部予測):25%。巡回する目は増えても、駆けつける足の数は変わらなかった――それが、警察官という仕事の2045年です。
リファレンス
※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


