検針票の「+880円」 静岡市の水道代を上げ続ける「5回の改定」に気づいた家族

検針票の「+880円」水道代を上げ続ける「5回の改定」 読み物(転落家族)

※本連載はフィクションです。実在の家族・団体とは関係ありません。

静岡市葵区に住む望月家は、夫の航平さん(45・会社員)、妻の由美さん(41・パート勤務)、そして小学4年生の娘、結菜ちゃんの3人家族だ。

「水道代の検針票、今月ちょっと高くない?」

夕食の片づけをしながら、由美さんがテーブルの上の紙切れを航平さんに差し出した。8月分の請求。いつもは目を通すだけで終わる紙だった。

「え、いくら上がったの」

「合計で880円。2か月分だから、大したことないと思うけど……」

航平さんは箸を止め、明細をのぞき込んだ。水道料金の欄に「436円」、下水道使用料の欄に「444円」。それぞれ小さな増額が並んでいる。

「880円か。まあ、コーヒー2杯分くらいだな」

そう言って笑おうとしたが、明細の下に書かれた一文が目に留まった。「今後は2025年から2040年までの15年間、3年ごとに段階的に改定します」

「……これ、1回で終わりじゃないってこと?」

由美さんが手を止めた。

「たぶんそう書いてある。あと4回、同じことが起きるってことだよな」

静岡市の公式サイトを確認すると、事情はこう説明されていた。上下水道は独立採算制で運営されており、税金には基本的に頼れない。南海トラフ地震の発生確率が引き上げられたことを受け、老朽化した水道管・下水道管の更新に加え、大地震時にも早期復旧できるよう耐震化を加速させる方針だという。今後15年間の総費用は1兆円を超え、国庫補助金や企業債を活用してもなお1,031億円が不足する見込みで、その財源を料金の値上げに求めている。

「地震のためなら、仕方ない気もするけど……」

由美さんがつぶやいた。防災の必要性は理解できる。けれど、家計を預かる立場としては、それとこれとは別の話だった。

「1回440円くらいなら、確かに痛くない。でも、電気代もじわじわ上がってるし、食費も上がってる。それが1個1個は小さくても、積み重なると結構な額になるんだよな……」

航平さんの声には、諦めとも苛立ちともつかない響きがあった。目の前の数字は小さい。だが、これから15年間、3年に一度、同じ通知が届き続けることを知ってしまった今、「たった880円」という感覚はもう取り戻せなかった。

静岡市の水道・下水道料金改定の中身

静岡市公式サイトによると、改定は2026年6月使用分から適用される。実際の支払いへの反映は、奇数月に検針する地区では2026年8月支払い分(7月検針分)から、偶数月に検針する地区では2026年9月支払い分(8月検針分)からとなる。

一般家庭(2〜3人世帯)を想定したモデルケース(水道メーター口径20ミリメートル、2か月分の使用水量40立方メートル)では、次のように変わる。

  • 水道料金:5,214円 → 5,650円(+436円、改定率+8.4%)
  • 下水道使用料:5,554円 → 5,998円(+444円、改定率+8.0%)
  • 合計:10,768円 → 11,648円(+880円、改定率+8.2%)

静岡市は、少量使用者(一般家庭等)の改定率を他都市と比較して低めに、中量〜大量使用者(事業所等)の改定率を高めに設定したとしており、一般家庭への影響は事業所ほど大きくない設計になっている。

一方で、改定は今回限りではない。静岡市は2025年から2040年までの15年間、3年ごとに段階的な改定を予定しており、今回はその第1弾にあたる。背景には、能登半島地震の教訓を踏まえた上下水道の一体的な耐震化と、南海トラフ地震の発生確率引き上げがある。今後15年間の投資・財政計画では総費用が1兆957億円に上り、国庫補助金・企業債を活用してもなお1,031億円の財源不足が見込まれるとしている。

水道料金の値上げは静岡市に限った動きではなく、全国各地の自治体で同様の改定が相次いでいる。人口減少による料金収入の減少と、老朽化した水道管・下水道管の更新費用の増大が、多くの自治体に共通する構造的な要因とされている。

リアル家計簿:望月家(夫45歳・妻41歳・子1人)

収入

  • 夫の手取り月収:280,000円
  • 妻のパート収入:80,000円
  • 収入合計:360,000円

固定費

  • 住宅ローン(変動金利、現在):90,000円
  • 通信費(スマホ3台・Wi-Fi):13,000円
  • 生命保険・火災保険:20,000円
  • 水道・下水道料金(2か月分11,648円を月割り):5,824円(改定前比+440円)
  • 電気・ガス代:22,000円
  • 車の維持費(ローン・任意保険・駐車場):18,000円
  • 娘の習い事(ピアノ・スイミング):15,000円
  • 固定費小計:183,824円

変動費

  • 食費:75,000円
  • 日用品・雑費:15,000円
  • 娘の学校関連費(給食費・教材費):8,000円
  • 交際費・外食:12,000円
  • 変動費小計:110,000円

特別費(年間支出の月割り)

  • 自動車税・車検・タイヤ交換(年間約11万円の月割り):9,000円
  • 固定資産税(年間約12万円の月割り):10,000円
  • 帰省・家族旅行・冠婚葬祭(年間約14万円の月割り):12,000円
  • 特別費小計:31,000円

貯蓄(つみたてNISA・学資保険):50,000円

支出合計:374,824円
収支:−14,824円(ボーナスで補填)

月々の収支は、約1万5,000円の赤字。車検や固定資産税のような年単位の支出まで月割りで組み込むと、毎月の給料だけでは収まらないのが望月家の実情だ。不足分は、夏と冬のボーナスで補填してきた。

だからこそ、水道代のように「3年ごとに、あと4回」と決まっている値上げは軽くない。1回あたりは数百円でも、電気代や食費など他の値上げと重なれば、ボーナスで埋めるべき穴は静かに広がっていく。そして、ボーナスが今の水準で出続ける保証は、どこにもない。

「次の改定、2029年だっけ」

「うん。結菜が中学に上がる頃だね」

娘の成長の節目と、値上げの周期が重なって思い浮かぶ。航平さんは検針票をもう一度たたみ直し、財布にしまうように引き出しの中の家計簿に挟んだ。

* 2026年6月使用分から水道料金・下水道使用料を値上げします(静岡市)

※本連載はフィクションです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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