手取り41万円が失業給付では月24万円台に 事業部の撤退で職を失った47歳夫婦の家計

失業給付には上限がある 手取り41万円が月24万円台に 転落家族

※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。

大村誠司(47歳)が勤めていた精密機器メーカーは、この春、主力ではない事業部からの撤退を決めました。営業課長として22年勤めた誠司に示されたのは、別の事業部への配置転換か、希望退職かの二択です。

配置転換の先は、片道1時間半の工場でした。妻の理沙(45歳)は学童保育の支援員として働き、長男は高校2年、長女は中学1年。単身赴任か、家族での転居か。迷ったすえ、誠司は希望退職を選びました。

「まあ、失業保険もあるし」

契約書にサインした夜、誠司は理沙にそう言いました。会社都合の離職なら、すぐに給付が始まる。そこまでは調べていました。

調べていなかったのは、いくら出るのか、でした。

基本手当日額には上限がある

雇用保険の失業給付、正しくは「基本手当」は、離職前6か月の賃金の合計を180で割った「賃金日額」に、給付率をかけて計算します。給付率はおおむね50%から80%で、賃金が低い人ほど高い率が適用されます(60歳から64歳は45%から80%)。

そして、基本手当日額には年齢区分ごとの上限額が決められています。ハローワークインターネットサービスによると、2025年(令和7年)8月1日現在の上限額は次のとおりです。

  • 30歳未満:7255円
  • 30歳以上45歳未満:8055円
  • 45歳以上60歳未満:8870円
  • 60歳以上65歳未満:7623円

誠司の月の総支給額は54万円、手取りは41万円でした。賃金日額を計算すると給付率は下限の50%に張り付き、そのうえで47歳の上限にも届いてしまいます。誠司の基本手当日額は、45歳以上60歳未満の上限額そのもの、8870円になりました。

基本手当は28日分ずつ振り込まれます。8870円の28日分で、24万8360円。

「一日8870円?」

ハローワークから帰った誠司の説明を、理沙は2回聞き返しました。

「上限なんだって。それ以上は出ない」

「……それ、28日ぶんにすると」

「24万8360円」

理沙は指を折るのをやめて、テーブルの上のチラシを見ました。長男の夏期講習の案内でした。

「手取りの、六割くらい」

「そういうことになる」

誠司は、給料が下がることは覚悟していました。ただ、下がり方の見当が違っていたのです。給料が高かったぶん、上限にぶつかって、代わりの割合はかえって小さくなりました。

330日という数字の安心と、そうでもない部分

会社都合の離職は、雇用保険では「特定受給資格者」として扱われます。給付を受けられる日数は、年齢と被保険者であった期間で決まります。ハローワークインターネットサービスの所定給付日数の表によると、45歳以上60歳未満で被保険者期間が20年以上の場合は330日です。

22年勤めた47歳の誠司は、この区分に当てはまります。330日はおよそ11か月分。自己都合で辞めた場合の150日と比べれば、たしかに長い。

「11か月あれば、なんとかなるんじゃない」

理沙はそう言いましたが、誠司は素直にうなずけませんでした。給付が続くあいだ、支出のほうは会社員だったころのままでは済まないからです。

健康保険は、会社の保険を任意継続するか、国民健康保険に入るかを選びます。任意継続を選べば、これまで会社が半分出していた分も自分で払うことになります。年金も同じで、厚生年金から国民年金に移り、第3号被保険者だった理沙も自分で払う側になります。国民年金保険料は2026年度(令和8年度)で月1万7920円。夫婦2人分で3万5840円です。

そしてもう一つ、忘れていたものがありました。住民税です。前の年の所得にかかるため、収入が減った年にも、去年の給料をもとにした金額が届きます。

「これ、来るんだ」

納付書を開いた誠司は、それだけ言いました。

最初に削ったのは、来年の分ではなく今年の分だった

大村家が最初に見直したのは、長男の夏期講習でした。全科目のコースから、数学と英語の2科目だけに減らしました。

「ごめん」と誠司が言うと、長男は「別にいいよ」と答えました。それ以上は何も言わなかったので、かえって誠司は落ち込みました。

残したものもあります。長女が中学で始めたばかりの吹奏楽の費用と、長男の進学用に毎月1万円ずつ積み立てているぶんです。

「積立を止めるのは、たぶん最後にしたほうがいい」と理沙が言いました。「止めると、再開しないから」

退職金は出ました。ただ、誠司はそれを生活費として使うことに、まだ抵抗があります。住宅ローンの繰り上げ返済に充てるつもりで、20年近く数えてきたお金でした。

いま、大村家の家計は毎月9万9480円の赤字です。退職金を取り崩しながら、330日を数えています。

【コラム】給付の始まりは、離職日の翌日ではない

会社都合の離職の場合、自己都合のような2か月の給付制限はありません。ただし、離職後すぐに振り込まれるわけでもありません。

ハローワークで求職の申し込みをしてから、通算7日間の「待期期間」があります。この7日間は誰でも共通で、給付の対象になりません。そのうえで、実際の振り込みは失業の認定を受けたあとになるため、離職から最初の入金までにはひと月前後の間があくのが一般的です。

収入が完全に途切れる期間が、最初に1回だけ生まれる。この空白をどう埋めるかを、離職前に決めておけたかどうかで、その後の家計の削り方はかなり変わります。

リアル家計簿:大村家(夫47歳・妻45歳・子2人)

収入

  • 雇用保険の基本手当(日額8870円の28日分):24万8360円
  • 理沙のパート収入の月9万2000円(学童保育の支援員):9万2000円
  • 児童手当(高校生年代と中学生の2人分):2万円
  • 収入合計:36万360円

固定費

  • 住宅ローン(変動金利・返済12年目):10万4000円
  • 健康保険の任意継続(家族4人分・全額自己負担):3万6000円
  • 国民年金保険料(夫婦2人分・2026年度は月1万7920円):3万5840円
  • 生命保険・医療保険(夫婦2人分):1万8000円
  • 通信費(スマホ4台・光回線):1万9000円
  • 車1台(ローン・任意保険・駐車場):3万2000円
  • 固定費小計:24万4840円

変動費

  • 食費(4人・外食を含む):7万8000円
  • 電気・ガス・水道:2万4000円
  • ガソリン・交通費:1万4000円
  • 日用品・医療費:1万2000円
  • 長男の塾・模試費(夏期講習を2科目に縮小):2万4000円
  • 長女の吹奏楽の費用:8000円
  • 変動費小計:16万円

特別費(年間支出の月割り)

  • 住民税(前年の所得にかかる分・年間約31万円の月割り):2万6000円
  • 自動車税・車検・タイヤ交換(年間約11万円の月割り):9000円
  • 帰省・冠婚葬祭・家電の買い替え(年間約12万円の月割り):1万円
  • 特別費小計:4万5000円

貯蓄

  • 長男の進学用の積立:1万円

支出合計:45万9840円

収支:−9万9480円(退職金の取り崩しで補填)

不足分は、繰り上げ返済に充てるはずだった退職金から埋めています。誠司が数えているのは、残りの給付日数と、取り崩せる残高の2つです。どちらが先に尽きるかで、次の仕事の選び方が変わってしまう。それが、いまの大村家のいちばんの重石になっています。

ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」
日本年金機構「国民年金保険料」
こども家庭庁「児童手当制度のご案内」

※本連載はフィクションです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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