※本記事は実在の金利データにもとづき、家計への影響をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。登場する世帯・人物は架空です。
住宅ローンの全期間固定金利は、3%台の水準にあります。住宅金融支援機構が公表した2026年7月資金受取分のフラット35は、借入期間21年以上35年以下・融資率9割以下で年3.140%です。
一方、変動金利は1%前後です。住宅金融支援機構の資料によると、主要都市銀行5行の優遇後の金利は、2026年7月時点で中央値1.025%でした。同じ額を借りても、毎月の返済額には5万円を超える差がつきます。
この差は、35年かけてどうなるのか。同じ分譲地に同じ日に引っ越してきた2つの家族の返済を、4つの未来で試算しました。
分かれ道の日
2026年7月、私鉄の駅からバスで12分の分譲地に、9区画の一戸建てが並びました。まだ表札の出ていない家が多く、道路には施工会社のコーンが残っています。
隣り合う2区画に入ったのが、藤原家と篠田家でした。
藤原健吾(36歳)は物流会社の管理職です。妻の藤原真澄(34歳)は事務のパート、長女は6歳で小学1年生、長男は3歳。世帯年収は850万円ほどで、物件価格5200万円、頭金600万円を入れて、借入額は4600万円になりました。
藤原家が選んだのは全期間固定です。
「上の子が中学に上がるころ、下の子が小学校に入る。そのあたりの出費が読めないので、せめてローンだけは動かないようにしておきたかったんです」
篠田陽太(35歳)はシステム開発の会社に勤めています。妻の篠田里奈(33歳)は事務職で、長男は5歳、長女は2歳。世帯年収も850万円ほどで、物件は同じ間取りの隣区画。価格も頭金も借入額も藤原家と同じでした。
篠田家が選んだのは変動です。
「今は保育園の費用がかかる時期で、月に5万円違うのは大きいんです。差額は投資信託に積み立てて、金利が上がったら繰り上げ返済に回すつもりでいます」
引き渡しの日、藤原健吾が玄関前で段ボールを下ろしていると、隣の区画から篠田陽太が挨拶に来ました。ゴミの収集日と自治会の当番の話をしているうちに、どちらからともなく住宅ローンの話になりました。
同じ間取り、同じ物件価格、同じ借入額。世帯年収も子どもの数も近い。そこまで揃っていて、選んだ金利タイプだけが違うとわかったとき、2人は顔を見合わせて笑いました。
「じゃあ、どっちが正解だったかは、35年後にわかるわけですね」
篠田がそう言うと、藤原は首を振りました。
「35年も待たないと思いますよ。うちの返済額は動かないので、先にわかるのはお宅のほうです」
どちらの判断にも理由があり、どちらもその場では合理的でした。
4つの未来
2世帯の借入条件はそろっています。借入額4600万円、返済期間35年、元利均等返済、ボーナス返済なし。違うのは金利タイプだけです。
藤原家の金利は3.140%で、完済まで動きません。毎月の返済額は18万645円です。
篠田家の金利は0.925%です。店頭金利3.125%から優遇幅2.2%を引いた水準として設定しました。毎月の返済額は12万8250円。藤原家との差は5万2395円で、年に直すと62万8740円になります。
ここから先は確定した数字ではありません。日本銀行の政策金利が今後どう動くかで、篠田家の返済は変わります。4つの想定を置いて計算しました。すべて編集部の想定であり、どれが起きやすいという意味は含みません。
同じ水準まで上がる場合でも、上がる速さが違えば返済は変わります。そこで、政策金利が0.25%ずつ、決まった間隔で上がっていく形に条件をそろえました。住宅ローンに適用される金利は、政策金利より0.075%低い水準(いまは1.0%に対して0.925%)が続くものとしています。
未来1 政策金利が1.0%のまま続いた場合
篠田家の返済額は、35年間12万8250円のままです。総返済額は5386万4685円。藤原家の7587万273円より、2200万5588円少なくなります。
未来2 5年で政策金利が2.0%になった場合
篠田家の金利は1.925%へ上がります。6年目の見直しで返済額は15万414円になり、それでも藤原家より3万231円安い水準です。総返済額は6184万3923円で、藤原家より1402万6350円少なくなります。
未来3 10年で政策金利が3.5%になった場合
篠田家の金利は3.425%まで上がり、藤原家の3.140%を追い越します。返済額は6年目に15万6610円、11年目に18万4773円。総返済額は7252万3375円で、藤原家より334万6898円少なくなります。差は300万円台まで縮みました。
未来4 5年で政策金利が3.5%になった場合
金利が最後にどこまで上がるかは未来3と同じ3.425%です。違うのは、そこまで上がりきるのが10年後ではなく5年後だという点だけです。
篠田家の返済額は6年目に16万312円、11年目に20万52円まで上がります。この6年目の16万312円は、金利の上昇をそのまま反映した金額ではありません。そのまま計算すると19万316円になりますが、後述する125%ルールによって、それまでの返済額12万8250円の125%にあたる16万312円で頭打ちになっています。総返済額は7732万9158円。ここで初めて、藤原家の7587万273円を145万8885円上回ります。
返済の記録

金利が上がるのが早いか遅いかで480万円変わる
未来3と未来4は、最終的な金利がどちらも3.425%で同じです。違うのは、そこまで上がりきるまでの年数だけでした。それでも総返済額には480万5783円の開きが出ました。
理由は、住宅ローンの利息が「そのときの残高」にかかるからです。
借入直後の残高は4600万円。ここに高い金利がかかると、利息の額は大きくなります。藤原家の場合、20年後の残高は2590万円ほどで、借入直後の6割弱まで減っています。同じ金利がかかっても、利息の額はその分だけ小さくなります。金利が上がるのが遅いほど、高い金利がかかる元本は小さくなります。
篠田家の初回返済の内訳を見ると、12万8250円のうち利息は3万5458円で、元本の返済に9万2792円が回っています。藤原家は18万645円のうち利息が12万366円で、元本に回るのは6万279円です。
はじめの数年は、変動を選んだ世帯のほうが元本の減りが速くなります。この貯金が、後から金利が上がったときの緩衝材になります。逆に、早い時期に上がると緩衝材ができないまま高い利息を払い続けることになります。
未来4では、10年後の残高が4028万3525円まで残り、藤原家の3751万5002円を上回りました。金額の大きさが逆転しているのは、未来4の篠田家のほうが元本を減らせていないという意味です。
5年ルールが守るもの 守らないもの
変動金利には、多くの銀行で5年ルールと125%ルールが付いています。三菱UFJ銀行の説明によれば、適用利率が変わっても5年間は返済額が変わらず、見直しで増える場合もそれまでの返済額の125%を超えないという仕組みです。
家計の急変を防ぐ装置ですが、注意点が2つあります。
ひとつは、返済額が据え置かれている間、金利の上昇分は返済額の内訳を変える形で吸収されるという点です。同じ額を払っていても、利息の割合が増え、元本の返済に回る額が減ります。未来4の篠田家は、6年目に元本へ回る額が3万8210円まで落ち込みます。借入直後の9万2792円と比べると、約4割まで縮む計算です。
もうひとつは、金利が急に上がると未払利息が発生しうる点です。今回の借入条件では、適用金利が3.346%を超えると、借入直後の残高では利息だけで返済額12万8250円に届きます。そこを超えた分は未払利息として繰り延べられ、契約によっては最終返済日にまとめて支払うことになります。試算では、5年で政策金利が4.0%まで上がる想定を置くと、6年目の返済額が125%の上限16万312円で頭打ちとなり、未払利息が2万2220円発生しました。
なお、返済額が据え置かれることと、支払う利息が減ることは別の話です。5年ルールは金額の変化を後ろにずらす仕組みであって、金利の上昇そのものを打ち消すものではありません。
試算条件
- 借入額4600万円、返済期間35年、元利均等返済、ボーナス返済なし、2026年7月実行、初回返済2026年8月。物件価格5200万円、頭金600万円は2世帯共通
- 固定:フラット35の2026年7月資金受取分、借入期間21年以上35年以下・融資率9割以下の最頻金利3.140%(新機構団信付き)。住宅金融支援機構の公表値
- 変動:住宅金融支援機構の資料に示された変動金利型(優遇前)と同じ3.125%を店頭金利とし、そこから優遇幅2.2%を引いた0.925%を出発点とした。4つの未来の金利の動き方は、政策金利が0.25%ずつ決まった間隔で上がるものとした。未来1は1.0%のまま、未来2は5年で2.0%へ(0.25%ずつ4回・15か月ごと)、未来3は10年で3.5%へ(0.25%ずつ10回・12か月ごと)、未来4は5年で3.5%へ(0.25%ずつ10回・6か月ごと)。住宅ローンの適用金利は、いずれも政策金利より0.075%低い水準とした。優遇幅と、その後の金利の動き方はいずれも編集部の設定
- 短期プライムレート2.125%は日本銀行の公表値(2026年2月9日時点の最頻値)。3.125%はこれに1.0ポイントを加えた水準にもあたる
- 政策金利は2026年6月16日の金融政策決定会合で1.0%程度に引き上げられた。日本銀行はこの公表文で、今後も政策金利を引き上げていく方針を示している。ただし引き上げの時期と幅は示されていないため、本記事の4つの未来はすべて編集部の想定である
- 変動は5年ルール・125%ルールを適用し、金利の見直しは半年ごと、返済額の見直しは5年ごととした
- 毎月の利息の計算で1円未満の端数が出た場合は切り捨てた
- 住宅ローン控除、繰り上げ返済、事務手数料、保証料、火災保険料は計算に含めていない
借りる前に確かめておけること
今回の試算で、藤原家が篠田家を下回ったのは4つのうち1つだけでした。ただしそれは、政策金利がどこまで上がるかだけでなく、いつ上がるかに左右される結果でもありました。同じ3.5%でも、そこまで上がるのが5年後か10年後かで、家計の景色は変わります。
将来の金利は誰にもわかりません。わかるのは、自分の契約に何が書いてあるかだけです。
変動を選ぶなら、5年ルールと125%ルールが付いているか、金利の見直しは年に何回か、未払利息が出たときの扱いはどうなっているか。この3点は、契約書や商品説明書で確認できます。固定を選ぶなら、毎月の返済額が家計のどれくらいを占めるかを、教育費が重なる時期まで並べて確かめておくことになります。
判断はご自身の契約条件と手数料を確認したうえで進めてください。金利タイプの選択に、あとから正解が決まるだけの答えはありません。
リファレンス
- 【フラット35】最新の金利情報(住宅金融支援機構)
- 【フラット35】借入金利の推移(住宅金融支援機構)
- 長・短期プライムレート(主要行)の推移(日本銀行)
- 金融市場調節方針の変更について 2026年6月16日(日本銀行)
- 【目的別ローン】変動金利の基準金利見直しについて(三菱UFJ銀行)
- 住宅ローンを利用する場合の3つのリスク(住宅金融支援機構・2026年7月作成)
※本連載はフィクションです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


