AI時代 2045年の仕事内容「大工」編――図面はデータになっても、木を納める手は消えない

AI時代2045年の仕事内容「大工」編アイキャッチ 読み物(2045年の仕事)

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

「大工になりたいって言ったら、母に反対されて」

高校2年生の田中悠人は、うつむき気味にそう言った。工業高校ではなく普通科に通っていて、大学進学が既定路線のような家庭で育った。祖父が昔、宮大工だったという話を聞いてから、木を扱う仕事に興味を持つようになったのだという。

「でもネットで調べたら、建設業もAIとロボットでどんどん自動化されるって書いてあって。母にも『そんな仕事、なくなるかもしれないのに』って言われました。実際どうなんですか」

「この仕事、正直に言いますね」とミチルさんは答えた。「2045年現在、大工の仕事のおよそ22パーセントがAIやデジタル技術に置き換わっています。設計図面や必要な資材の計算は、ほとんどコンピュータの仕事になりました」


AI代替率

(編集部予測)

22%


2026年、大工の現在地

2026年時点、大工として働く人は全国で約29万8千人(令和2年国勢調査)。平均年齢は50.2歳、平均年収は485.5万円(いずれも令和7年賃金構造基本統計調査)です。働き方の6割以上が自営・フリーランスで、独立して工務店を営む人も少なくありません。

特徴的なのは、この仕事に学歴や資格が特に必要とされない点です。工務店に弟子入りする形での入職が中心で、実際に働いている人の学歴は高卒が6割近くを占めます。一方で、規模の大きな木造住宅の設計や工事管理をするには「二級建築士」や「木造建築士」の資格が必要で、独立して親方(棟梁)になる人の多くはこうした資格を持っています。

人手不足も深刻です。2026年度の有効求人倍率は2.47倍(求人1件に対して働く人が1人もいない状態)まで上がっています。厚生労働省の調査では、大工自身が「自分の仕事は機械やコンピュータに自動化されにくい」と考えている傾向も出ており、これは2045年の姿を考えるうえで重要な手がかりでした。


2045年、何がこの仕事を変えたか

変化の中心は、設計・積算・現場管理のデジタル化です。国土交通省は2020年代から、建設現場の生産性向上を目指す「i-Construction」という取り組みを進めてきました。3次元モデルを使った設計データを、そのまま資材の発注や施工計画に活用する仕組みが整い、大工が手作業で行っていた見積もりや資材の数量計算の多くは、ソフトウェアが代わりに行うようになりました。

一方で、この取り組みが主に力を発揮したのは、道路や橋といった大規模な土木工事の分野でした。一般住宅、とりわけ木造住宅の新築や増改築は、建物ごとに敷地の形も既存の建物の状態も違う「一点もの」の仕事です。建設用の3Dプリンターも研究が進みましたが、建築基準法の規制もあり、2026年時点ではまだ規格化された小規模な建物への適用が始まったばかりでした。

2045年になっても、狭い敷地に建物を収める、古い家の傷んだ部分だけを直す、といった「現場ごとに一つひとつ判断しながら手を動かす」仕事の多くは、大工の手に残りました。


ある一日

朝、現場に届いたのは、工場で事前にカットされた木材一式だった。寸法はすべて3次元設計データから自動で計算されたものだ。担当の大工は、届いた木材を手に取り、実際の柱や梁の位置と照らし合わせていく。

古い家の増築現場では、思わぬ誤差が見つかった。築40年の建物は、図面どおりにまっすぐ建っていないことがある。「ここ、5ミリずれてるな」――担当者はカンナで木材を削りながら、その場で調整していく。データにはない、現場だけの仕事だった。

夕方、若手の弟子に手元の道具の使い方を教えていた。電動工具は昔よりずっと使いやすくなったが、木の癖を見極めて刃を入れる感覚だけは、何年もかけて体で覚えるしかない。


消えた業務・残った業務

分類内容
AIに代替設計図面・施工図の作成、必要な資材の数量計算・発注、工程表の作成
AIと協働3次元データにもとづく資材の工場加工(プレカット)、現場の進捗管理・報告書の作成支援
人間に残る現場ごとに異なる寸法・状態への微調整、古い建物の改修における臨機応変な対応、施主との打ち合わせ・工事全体の采配、後進の技能指導

それでも人間がやる価値

工場で正確に加工された木材も、現場に運ばれた瞬間から「一点もの」の仕事になります。同じ図面はあっても、同じ現場は二つとありません。その場で木の癖を見極め、寸法のわずかなずれを調整し、納めていく――この「現場で完成させる」感覚こそ、2045年になっても機械に置き換わらなかった大工の核心です。


2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)

  • 技能を磨き、独立して工務店を構えた層:750万円〜
  • 雇われ大工として働く層:480万円前後
  • 参考・2026年の平均:485.5万円(令和7年賃金構造基本統計調査)←一次情報◎

大工は人手不足が特に深刻な職種の一つで、担い手が減るほど一人あたりの仕事の単価は上がりやすい傾向にあります。雇われて働く層の年収が現行水準から大きく下がりにくいのは、この人手不足が下支えになっているためです。


この仕事を目指すきみへ

「学歴が絶対条件の仕事ではありません」とミチルさんは言った。「でも、体力と、何年もかけて感覚を磨く根気は必要です。もし興味があるなら、まず実際の現場や工務店を見学してみてください。数字やデータの仕事に興味があるなら、資格を取って設計や工事管理の側に進む道もあります」

悠人は少し表情を緩めた。「機械にできない部分がある、っていうのは、ちょっと安心しました」「安心していいけれど、油断はしないでくださいね」とミチルさんは笑った。「機械に任せられる部分が増えるほど、人にしかできない部分の価値は、はっきりしていきますから」

【コラム】プレカットという仕組み

現在の木造住宅の多くは、柱や梁をあらかじめ工場で機械加工してから現場に運ぶ「プレカット」という方式で建てられています。設計データをもとに工場のコンピュータが加工を行うため、現場での木材加工の手間は大きく減りました。それでも、現場での最終的な調整や、木材同士を組み合わせて建物として仕上げていく作業は、今も大工の手にゆだねられています。


大工という仕事は、これからも消えません。ただし、「機械が加工する部分」と「現場で人が納める部分」の境界線は、これからも少しずつ動いていきます。

厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)大工
国土交通省 i-Construction 2.0~建設現場のオートメーション化~

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました