しおり堂の処方箋

四面楚歌「聞こえてくる歌だけで、決めなくていいのです」

花冷えの残る、三月の夜だった。店のドアが、ためらいがちに開いた。コートを着た女が、店内を確かめるように一歩だけ入って、立ち止まった。名は平井早紀、三十四歳。転職してきたばかりの、とある会社のマネージャーだった。「あの、ここ、しおり堂さん、で...
転落家族

修繕積立金が月6,300円上がった 築10年マンション「段階増額」に直面した42歳会社員の家計

4月の管理組合総会の議案書を読んでいた沢井直樹(42・機械部品メーカー勤務)は、第3号議案のページで手が止まった。「修繕積立金の改定について(月額10,500円→16,800円)」読み間違いかと思い、もう一度確認した。月6,300円の値上げ...
転落家族

基本給は上がったのに苦しい家計 実質賃金0.5%減に直面した39歳会社員家族

基本給が上がった月の給与明細を見て、桐生大輔(39・食品メーカー営業)は思わず二度見した。前年より8,000円多い。今年の春闘でベースアップと定期昇給が重なった結果だった。「ついに上がったね」妻の知子(37・ドラッグストアでパート勤務)にそ...
しおり堂の処方箋

羹に懲りて膾を吹く「その皿は、もう冷めています」

木枯らしが吹き始めた、平日の午後だった。店のドアが開き、コートの襟を立てた男が入ってきた。手にはノートパソコンの入ったバッグを、まるで大事な荷物のように両手で抱えている。名を、高瀬悠真という。三十二歳。フリーランスでウェブデザインの仕事をし...
2045年の仕事

AI時代 2045年の仕事内容「漁師」編――魚群探しは消えても、海を読む目は消えない

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。駅前の雑居ビルの2階にある仕事案内所に、制服姿の女子高生が一人でやってきた。佐々木葵(1...
転落家族

妻の乳がんで月8万5000円のパート収入が止まった日 治療費より重い「収入の空白」に直面した40代夫婦の家計

※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。「精密検査って、書いてある……」。市の乳がん検診の結果通知を開いた柏木恵美(43・パート勤務)は、台所でしばらく封筒を持ったまま動けなかった...
あなたの知らない官報

花の品種にも更新料がある 払わなければ権利は10か月前にさかのぼって消える

2026年7月17日発行の官報(号外第160号)に、農林水産省の告示が並びました。第1003号から第1014号まで、12本が続けて掲載されています。書かれている内容は、どれも同じ形式です。「次の品種登録を取り消したので、同条第五項の規定に基...
2045年の仕事

AI時代 2045年の仕事内容「ホテルスタッフ」編――チェックインは消えても、出迎える人は消えない

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。駅前の雑居ビル2階、「仕事案内所」。夕方の相談ブースに、スーツ姿の男性が腰を下ろした。膝...
しおり堂の処方箋

蛇足「足すのは、もうそこまでです」

雪がちらついていた。閉店間際、しおり堂の戸を押し開けたのは、コートの肩を白くした初老の男だった。町の電器店を営む沢田浩一は、娘の結婚式で読むスピーチの下書きを、鞄に入れたまま歩き回っていた。「すみません、こんな時間に」栞さんは顔を上げ、「大...
転落家族

母の骨折をきっかけに始まった仕送り 月2万円が4万5000円に膨らんだ44歳会社員の家計

※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。「お母さん、右の足の付け根を骨折しちゃって……」。新潟県内の病院からかかってきた電話で、田辺健太(44・会社員)は最初、何が起きたのか飲み込...