4月の管理組合総会の議案書を読んでいた沢井直樹(42・機械部品メーカー勤務)は、第3号議案のページで手が止まった。
「修繕積立金の改定について(月額10,500円→16,800円)」
読み間違いかと思い、もう一度確認した。月6,300円の値上げ。年間にすれば75,600円になる。
「ねえ、これ見た?」
夕食の後、妻の裕子(40・調剤薬局で事務パート)に議案書を見せた。裕子は書類に目を落として、しばらく黙った。
「6,300円って、長女の塾の英語コース1つ分だよ」
沢井家がこの築10年・70平米のマンションを新築で購入したとき、修繕積立金は月7,000円だった。5年前に10,500円へ上がり、今回が2度目の引き上げになる。買ったときの資金計画では、正直、修繕積立金がここまで上がっていくことを織り込んでいなかった。
「段階増額積立方式」という仕組み
沢井家のマンションが採用しているのは「段階増額積立方式」と呼ばれる積立方法だ。国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2024年6月〈令和6年6月〉改定)によると、修繕積立金の積立方法には、計画期間中ずっと同じ額を積み立てる「均等積立方式」と、当初の積立額を抑えて段階的に値上げしていく「段階増額積立方式」がある。
新築マンションではこの段階増額方式の採用がほとんどだとガイドラインは説明している。購入者の当初の月額負担を軽くできるため広く使われている一方で、値上げの段階になって区分所有者間の合意形成ができず、修繕積立金が不足する事例も生じていると、同じガイドラインは注意を促している。そのうえで、将来にわたって安定的に積み立てる観点からは「均等積立方式が望ましい」と明記している。
つまり、沢井家が直面した値上げは、購入時から計画に組み込まれていた「予定どおりの負担増」だった。当初の月7,000円は、いわば将来の値上げを前提にした「入り口の金額」だったことになる。
ガイドラインには目安の水準も示されている。沢井家のマンション(地上10階建・建築延床面積約7,000平米)の区分では、修繕積立金の平均値は1平米あたり月252円。70平米に当てはめると月17,640円で、引き上げ後の16,800円(1平米あたり240円)は、むしろ目安の平均をやや下回る水準だった。値上げ自体が不当なのではなく、これまでの金額が将来の修繕に対して低すぎた、というのが実態に近い。
家計簿:沢井家(夫42歳・妻40歳・子1人)
収入
- 夫の手取り給与:320,000円
- 妻のパート収入:80,000円
収入合計:400,000円
固定費
- 住宅ローン(固定金利・35年、残り25年):95,000円
- マンション管理費:12,000円
- 修繕積立金:16,800円(今月から+6,300円)
- 通信費(スマホ3台・Wi-Fi):13,000円
- 生命保険・医療保険:16,000円
- 車1台(任意保険・敷地内駐車場・ガソリン):30,000円
固定費小計:182,800円
変動費
- 食費:82,000円
- 日用品費:12,000円
- 水道光熱費:23,000円
- 長女の塾・部活費:18,000円
- 交際費:10,000円
- 被服費:8,000円
変動費小計:153,000円
特別費(年間支出の月割り)
- 固定資産税(年間約13万円の月割り):11,000円
- 帰省・家族旅行(年間約12万円の月割り):10,000円
- 家電買い替え・住宅設備の補修(年間約6万円の月割り):5,000円
特別費小計:26,000円
貯蓄
- つみたてNISA:30,000円
支出合計:391,800円
収支:+8,200円
値上げ前の収支は+14,500円だった。月6,300円の負担増で、余裕分は半分近くまで細った。長女は中学1年。3年後の高校受験、その先の進学費用を考えると、この+8,200円は「余裕」というより「最後のクッション」に近い。
「今回で終わりならいいんだけど」
裕子の言葉に、直樹は議案書の後ろのページをめくった。長期修繕計画の表には、5年後にさらなる引き上げの予定額が記されていた。築15年を過ぎれば、2回目の大規模修繕も視野に入ってくる。
「予定どおりの値上げ」に備えるには
段階増額方式の値上げは、突発的な出費ではなく、長期修繕計画にあらかじめ書かれている。裏を返せば、議案書や重要事項説明書を確認すれば、何年後にいくらまで上がる計画なのかを事前に知ることができる。
ガイドラインの2024年(令和6年)改定では、段階増額方式の引き上げについて「計画の初期額は均等積立方式とした場合の基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内」という考え方が新たに示された。当初の金額を低く抑えすぎず、実現性のある引き上げ幅に収めることで、早期に引き上げを完了させて均等方式へ近づけていく狙いだ。沢井家のマンションのように、この考え方より前に計画が作られた物件では、当初の設定が低かった分、後半の引き上げ幅が大きくなりやすい。
直樹は議案書の長期修繕計画の表を写真に撮り、家計簿アプリのメモ欄に貼り付けた。5年後の引き上げ予定額も、いまのうちから毎月の家計に織り込んでおくためだ。予定どおりに来る値上げなら、予定どおりに備えるしかない。マンションを買った日には見ていなかったページを、沢井家はようやく読み始めたところだ。
参考文献
※本記事はAIを活用して作成した、実在の制度・統計にもとづくシミュレーション・ストーリーです。登場する家族・数値は説明のための一例であり、実在の個人・世帯を特定するものではありません。編集部は公的機関などの一次情報にもとづいて事実確認を行っています。詳しくは編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。


