2021年組の答え合わせ 払う利息より戻る税金が多かった5年間 その関係が今年ひっくり返った

戻る税金が利息より多かった その5年間が今年終わった 隣の住宅ローン 2021年組の答え合わせ 隣の住宅ローン

※本記事は実在の金利データにもとづき、家計への影響をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。登場する世帯・人物は架空です。

2021年8月、同じ分譲地の隣り合う区画に、2つの家族が家を建てました。物件価格も、頭金も、借入額も、返済期間も、世帯の年収も同じです。違ったのは、固定金利を選ぶか、変動金利を選ぶかだけでした。

5年が過ぎた2026年8月、変動金利を選んだほうの家に、銀行から1通の封書が届きます。

分かれ道の日

2021年8月。都心から電車で1時間ほどの郊外に造成された分譲地で、隣り合う2つの区画の契約が、同じ週に決まりました。

和泉直樹(34歳)と和泉沙織(32歳)の夫婦は、2歳の長男を連れて何度もモデルハウスに通ったすえに、いちばん奥の区画を選びました。宮下亮介(31歳)と宮下瑠衣(30歳)の夫婦が選んだのは、その隣です。生まれたばかりの長女を抱いて、瑠衣は日当たりを何度も確かめていました。

物件価格は両家とも4400万円。頭金600万円を入れて、3800万円を35年で借りる。返済方法は元利均等、ボーナス返済はなし。世帯の年収も同じ水準です(編集部設定)。ここまでの条件は、まったく同じでした。

分かれたのは、金利タイプです。

和泉直樹が選んだのは、全期間固定のフラット35。金利は1.28%でした(2021年8月の最低金利。借入期間21年以上35年以下・融資率9割以下・新機構団信付き。本記事では、和泉家はこの金利で借りたものとします)。

「35年、金額が動かない。それがいちばんありがたいんです」

そう説明する和泉直樹に、沙織もうなずきました。長男が大学に行くころ、毎月の返済額がいくらになっているか分からない。その状態が、沙織にはどうしても落ち着かなかったのです。

宮下亮介が選んだのは、変動金利でした。適用金利は0.575%(編集部設定。決め方は記事末尾の試算条件にまとめています)。

「毎月の差が1万2392円あります。5年でおよそ74万円ですよ」

亮介は電卓の画面を瑠衣に見せました。浮いた分を貯めておけば、金利が上がったときにまとめて返せばいい。変動金利のもとになる短期プライムレート(後述)は、そのとき10年以上動いていませんでした。亮介の計算は、その実績の上に立っていました。

引き渡しの日、和泉直樹が段ボールを車から下ろしていると、隣の区画から宮下亮介が挨拶に来ました。ゴミの収集日の話をひとしきりしたあとで、亮介のほうから金利の話を切り出しました。

「和泉さんは、固定にされたんですよね」

「ええ。うちは、動かないほうが向いてるみたいで」

直樹がそう答えると、亮介は笑いました。

「うちは逆です。動く前提で、そのぶん貯めておこうかと」

どちらの選択にも、その時点では理屈がありました。

5年後の隣人たち

2026年8月。宮下家の郵便受けに、銀行からの封書が入っていました。

「ご返済額変更のお知らせ」

瑠衣が開けると、10月分からの新しい返済額が印字されていました。9万9907円が、11万582円になる。1万675円の増加です。

「5年間、1円も変わらなかったのにね」

瑠衣がそう言うと、亮介は通知を裏返して、内訳の欄をしばらく見ていました。

金利は0.575%から1.225%に上がっています。それなのに毎月の返済額が変わらなかったのは、元利均等返済の変動金利の多くにある、5年ごとにしか返済額を見直さない仕組み(5年ルール)のためでした。この5年で金利は3回上がりましたが、そのたびに変わっていたのは返済額ではなく、利息と元本の割合のほうです。

同じころ、隣の和泉家の返済額は11万2299円のままでした。借りた月から1円も動いていません。

「うちは何も届いてないよ」

夕方、道端で顔を合わせた和泉直樹がそう言うと、亮介は封書の数字を伝えました。11万582円。和泉家より、まだ1717円安い金額です。

「まだ勝ってるじゃないですか」と直樹は言いました。亮介は笑って、それから少し黙りました。もうひとつ、通知には書かれていない変化があったからです。

返済の記録

返済の記録 和泉家(全期間固定1.28%)と宮下家(変動)。毎月の返済額と利息・元本の内訳、残高の推移。2026年10月の5年ルール見直し(編集部設定)で宮下家の返済額は11万582円に増える

なぜ差がついたのか

変動金利を動かしたのは、短期プライムレートの3回の引き上げ

住宅ローンの変動金利の基準金利は、銀行が優良企業に短期で貸すときの金利(短期プライムレート、略して短プラ)を主に参照して決める銀行が最も多くなっています(住宅金融支援機構の2024年度調査)。日本銀行が公表している主要行の短プラは、2009年1月から2024年8月まで、15年以上にわたって1.475%のまま動きませんでした。宮下家が借りた2021年8月も、この水準です。

それが3回、引き上げられました。2024年9月2日に1.625%、2025年3月3日に1.875%、そして2026年2月2日に2.125%です。約15年ぶりの上昇が、2年たらずで3段階分まとめて起きたことになります。

本記事では、店頭金利を短プラに1.0ポイント上乗せした水準(借入時は2.475%)とし、そこから優遇幅1.9ポイントを差し引いた金利を宮下家に適用する設定にしました。適用金利は0.575%から0.725%、0.975%、1.225%へと動いたことになります。

一方の和泉家の1.28%は、2021年8月に決まったまま動きません。全期間固定とは、そういう商品です。

返済額が5年間そのままだった理由

三菱UFJ銀行は、変動金利と元利均等返済を組み合わせた場合のルールを公式ページで説明しています。返済額の見直しは5年ごとで、その間に金利が変わっても返済額は変わらず、変わるのは元金と利息の内訳のほうです。これが5年ルールと呼ばれるものです。あわせて、見直しのときも新しい返済額は前回の125%を超えないという制限(125%ルール)もあります。こうしたルールの有無や数え方は、金融機関・商品によって異なります。

本記事では、見直しの時期を「10月1日を1回経過するごとに1年」と数える方式にならい、5年後の2026年10月分から新しい返済額を適用する設定にしました(編集部設定)。

宮下家の場合、見直し前の返済額9万9907円に対する125%の上限は12万4883円でした。実際の新返済額11万582円は、この上限には届いていません。

ただし、返済額が据え置かれていた間、宮下家の家計に何も起きていなかったわけではありません。図版のとおり、2024年9月には1万6787円だった利息が、2026年8月には3万4050円と約2.0倍になっています。返済額は同じですから、そのぶん元本の返済に回る分が8万3120円から6万5857円まで減りました。

なお、金利が上がりすぎて利息だけで返済額を超えると、超過分は未払利息として翌月以降に繰り延べられます。宮下家の水準では発生していません。

戻る税金より、払う利息のほうが多くなった

通知に書かれていない、もうひとつの変化がこれです。

住宅ローン控除は、年末のローン残高の一定割合を所得税などから差し引ける制度です。納めた税金の範囲で差し引く仕組みのため、誰でも満額が戻るわけではありません。本記事は、両家とも満額を控除できる前提の試算です。

2021年に入居した世帯の控除率は1%でした。2022年以降の入居では原則0.7%に下がっています。ただし、契約時期などの要件を満たす場合(特別特例取得等)は、2022年の入居でも1%が適用されることがあります。宮下家と和泉家は、2021年入居で1%の控除を受ける設定です。

ここで、宮下家の借入時の金利をもう一度見てください。0.575%です。

つまり、利息として払うのは残高の0.575%。控除で戻ってくるのは残高の1%。利息と控除だけを比べれば、戻りのほうが大きい関係になっていました。

実際の金額で見ると、2022年の宮下家は利息を21万4021円払い、控除で36万6800円を受け取っています。差し引き15万2779円のプラスです。この関係だけを見れば、手元の現金を急いで繰り上げ返済に回す理由は見当たらない。亮介が貯めることにこだわった背景には、この計算もありました(繰り上げ返済の有利不利は、実際には手数料や資金の使いみちなどによっても変わります)。

その関係が、金利の上昇で消えていきます。

  • 2021年:利息7万2597円/控除37万6700円 → 30万4103円のプラス(返済は9月からの4回分)
  • 2022年:利息21万4021円/控除36万6800円 → 15万2779円のプラス
  • 2023年:利息20万8342円/控除35万6900円 → 14万8558円のプラス
  • 2024年:利息21万5715円/控除34万7100円 → 13万1385円のプラス
  • 2025年:利息31万2780円/控除33万8200円 → 2万5420円のプラス
  • 2026年:利息39万5708円/控除32万9800円 → 6万5808円のマイナス

2026年に、初めてマイナスに転じました。適用金利が控除率の1%を上回る水準(本記事の設定では1.225%)まで上がり、年間に払う利息が、年末残高をもとに計算される控除額を初めて上回ったためです。

和泉家のほうは、事情が違います。金利1.28%は最初から控除率の1%を上回っていたため、2022年の時点ですでに10万9221円のマイナスでした。和泉家では、適用金利1.28%と毎月の返済額11万2299円が、この5年間変わっていません。

試算条件

  • 借入額3800万円・借入期間35年・元利均等返済・ボーナス返済なし。2021年8月借入、初回返済は2021年9月。物件価格4400万円・頭金600万円(両世帯とも共通)
  • 両世帯の世帯年収は同水準としています(編集部設定)
  • 和泉家の金利:フラット35(借入期間21年以上35年以下・融資率9割以下・新機構団信付き)2021年8月の最低金利1.28%(住宅金融支援機構の公表値・実績データ)
  • 宮下家の金利:店頭金利は短期プライムレート(日本銀行公表の主要行最頻値・実績データ)に1.0ポイントを上乗せした水準とし、優遇幅は1.9ポイントとして編集部が設定しました。適用開始は2021年9月に0.575%、2024年10月に0.725%、2025年4月に0.975%、2026年3月に1.225%です。短プラの改定から各行が適用するまでの時期は編集部設定です
  • 5年ルールの見直し時期は、10月1日を1回経過するごとに1年と数え、5年後の2026年10月分から新しい返済額を適用する設定としました(実際の見直しの基準日・適用月は金融機関により異なります。編集部設定)。125%ルールの上限額は、見直し前の返済額の1.25倍とし、1円未満は切り捨てです
  • 2026年9月以降の宮下家の金利は1.225%が続くものとして計算しています(編集部想定)
  • 毎月の利息の計算で1円未満の端数が出た場合は切り捨てとしました。毎月の返済額は1円未満を四捨五入しています
  • 住宅ローン控除の額は、各年12月末のローン残高の1%(100円未満切り捨て・上限40万円)としました。両世帯とも所得税と住民税から満額を控除できる前提です(編集部設定)。実際に受けられる額は、所得税額や住民税からの控除上限によって変わります
  • 2026年の利息と控除の額は、9月以降を含む年間の見込みです(編集部想定)

まとめ

2021年9月から2026年8月までの60回の返済で比べると、支払総額は宮下家のほうが74万3520円少なく済んでいます。2026年8月時点のローン残高も、宮下家が26万6443円少ない。見直し後の返済額でも、まだ和泉家より1717円安い水準です。本記事で比べた累計返済額とローン残高では、いまのところ宮下家の数字が小さいまま推移しています。

変わったのは、「借りている状態そのものが得になる」という前提のほうでした。宮下家が5年間なんとなく続けてきた「繰り上げ返済せずに置いておく」という判断は、控除率1%と金利0.575%の差の上に成り立っていたものです。その差が消えた今、同じ判断を続けるかどうかは、あらためて計算し直す話になります。

そして、この先の景色は金利次第で変わります。本記事のモデルでは、宮下家の次の返済額の見直しは2031年10月です。

変動金利で借りている方は、金融機関の商品説明書や契約書、返済予定表、公式サイトなどで、5年ルール・125%ルールの適用の有無、見直しの基準日、未払利息が出たときの扱いを確認してみてください(確認のしかたは金融機関・商品によって異なります)。入居した年によって住宅ローン控除の率と期間も違いますので、あわせて手元の書類を見てみてください。

リファレンス

※本連載はフィクションです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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