※本記事は公的統計データに基づき、現代の家計事情をリアルに再現したシミュレーション・ストーリーです。
妻の恵(44歳)がパートに切り替えた日、夫の孝(46歳)は「なんとかなる」と思っていた。義母の介護は、家族でやればいい。ヘルパーも週に数回入れればいい。でも夫婦が気づいたとき、毎月の収支は4万円超のマイナスになっていた。
フルタイムを辞めると決めた夜
恵が義母・禎子(74歳)の異変に気づいたのは2年前の秋だった。夕食のあと、禎子が同じ話を何度も繰り返した。翌朝には近所の人に昨日もう一度道を聞きに行った。「疲れているだけだろう」と思っていたが、半年後に要介護2の認定を受けた。
在宅でのヘルパー利用とデイサービスを組み合わせながら、孝の実家(車で10分)へ通う日々が始まった。最初は孝が朝晩に立ち寄っていたが、仕事を抜けられる日には限りがある。恵がフルタイムの正社員職を辞め、週4日のパートに転換したのは昨年春のことだ。「その方が動きやすい」という現実的な判断だったが、月収はそれまでの約25万円から8万円へと急落した。
家計に忍び込んできた介護費用
介護保険サービスの自己負担は原則1割だ。厚生労働省が公表するサービス利用料の情報によれば、要介護2の居宅サービス支給限度額は月197,050円で、1割負担ならおよそ2万円になる。ただし限度額の範囲内で使えるサービスには上限があり、それを超えれば全額自己負担となる。
禎子のケースでは、ヘルパー・デイサービスの自己負担が月3.8万円、介護用品やその他の実費が2.3万円、合計6万円超が毎月の固定費として加わった。「特別養護老人ホームへの入居申し込みは済ませているが、空きが出る見通しは立っていない」と孝は言う。在宅介護がいつ終わるとも知れない状態が続いている。
受験と介護が同時に来た
追い打ちをかけたのが、長女・麻友(15歳)の高校受験だ。中学3年になってから個別指導塾の費用が月4万円へと増えた。長男・翔(11歳)の学習塾と習い事を合わせると、教育費の合計は月6万円に達する。
「介護費用が増えたのと、麻友の塾代が上がったのがほぼ同時だった」と恵は言う。「どちらも削れない支出でした」。
2年前の夫婦の手取り合計は60万円あった(孝35万円+恵25万円)。現在は43万円(孝35万円+恵8万円)。17万円の収入が消えた一方、介護費用6万円・教育費増加分2万円という8万円の新たな支出が加わった。差し引き25万円の「家計の落差」が、静かに毎月の赤字を積み重ねている。
【コラム】「ダブルケア」はなぜ40代に集中するのか
育児と介護を同時に担う「ダブルケア」状態にある人は、内閣府の調査(総務省「就業構造基本調査」等のデータを基に推計)によれば女性約17万人、男性約8万人、合計約25万人にのぼるとされている。その年齢層の約8割が30〜40代だ。
晩婚化・晩産化が進む一方、親の高齢化が重なることで子育て期と介護期が同時に訪れる家庭が増えている。収入が伸びきる前に介護離職が重なるのが、この世代に特有の家計リスクだ。孝と恵の世帯は、統計が示す「起きやすい世帯」のまさに典型例だった。
リアル家計簿:孝・恵 夫婦の月間収支
【収入】月収(手取り)
- 孝(会社員・46歳):35万円
- 恵(パート・44歳):8万円
- 合計:43万円
【支出】固定費
- 住宅ローン:12万円
- 電気・ガス・水道:2.8万円
- 通信費(スマホ×2・光回線):1.8万円
- 生命保険・医療保険:2.8万円
- 自動車維持費(ローン+保険):2万円
- 小計:21.4万円
【支出】変動費
- 食費:7万円
- 日用品・消耗品:1.5万円
- 被服費:0.8万円
- 医療費:1.5万円
- 交通費・ガソリン代:2万円
- 娯楽・外食:0.8万円
- 小計:13.6万円
【支出】教育費
- 長女(中3)受験個別塾:4万円
- 長男(小5)学習塾・習い事:2万円
- 小計:6万円
【支出】介護費用
- ヘルパー・デイサービス自己負担(1割):3.8万円
- 介護用品・おむつ代:1.5万円
- 受診付き添い・その他:0.8万円
- 小計:6.1万円
月間支出合計:47.1万円
月間収支:−4.1万円
リファレンス
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