AI時代 2045年の仕事内容「電車運転士」編――決められたとおりに走らせる仕事は消えても 止めると決める仕事は消えない

2045年の仕事

※本連載は2026年時点の統計・公開情報にもとづく未来予測フィクションです。記事中の金額はすべて現在(2026年)の貨幣価値・物価水準に換算しています。

夕方の仕事案内所は、窓から西日が入る時間だった。ブースの外で足音が止まり、少ししてから、制服のズボンにリュックを背負った高校生が顔を出した。

「あの、予約なしでも大丈夫ですか」

「大丈夫ですよ。どうぞ」ミチルさんは机の端に寄せてあった椅子を引いた。

西村岳は椅子に座り、リュックを膝の上に抱えたままでいた。それから、折りたたんだ紙をポケットから出して、机に広げた。学校の進路希望の用紙だった。第1希望の欄に、鉄道会社と書いてある。

「担任の先生に、これを出したんです」西村は言った。「そうしたら、その仕事、20年後にもあるのかって聞かれて」

「先生は、なんとおっしゃいましたか」

「わからない、って。だから調べてこいと」西村は用紙の折り目を指でなぞった。「電車の運転士になりたいんです。でも、もう自動で走ってるじゃないですか」

2045年時点のAI代替率

ミチルさんは机の上で手を組んだ。

「この仕事、正直に言いますね」

2045年時点のAI代替率

(編集部予測)

65%

「6割5分です」ミチルさんは言った。「2026年ごろの運転士の仕事を業務量で分けると、そのくらいが装置とAIに移りました。運転そのものは、ほとんどそちらです」

西村の肩が下がった。

「ただ、残った3割5分は、まだ人が座っています。しかも、その席は減っていません」

2026年、この仕事の現在地

いまから20年ほど前、2026年の電車運転士がどういう仕事だったかを見ておきます。

厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)によると、電車運転士のしごとの内容は「乗客や貨物をのせた電車を運転し、安全かつ正確に目的地まで運ぶため、発車の準備、運転、到着後の報告、事故があった場合の処置などを行う」とされています。運転だけでなく、その前後と、うまくいかなかったときの処置までが仕事の範囲でした。

同サイトに載っている数字は次のとおりです。平均年収は719.2万円、平均年齢は41歳、月間の所定労働時間は152時間。いずれも2025年(令和7年)の賃金構造基本統計調査によるものです。就業者数は3万7130人で、こちらは2020年(令和2年)の国勢調査。国勢調査の「鉄道運転従事者」という区分の集計で、車掌などは含まれません。有効求人倍率(求人の数を、仕事を探している人の数で割った値)は1.3で、2024年度(令和6年度)の数値でした。1を超えているので、人手は足りていませんでした。

この仕事に就くには免許が要ります。名前は「動力車操縦者(鉄道)運転免許」。読みは、どうりょくしゃそうじゅうしゃうんてんめんきょです。国が定めた資格で、鉄道会社に入ってから、社内の養成を受けて取るのが一般的な道でした。

労働条件の特徴として、同サイトは「鉄道は昼夜を問わず通年運行しているので、交替制で勤務し、休日も交替でとる。夜間や早朝勤務の他に宿泊勤務もある」と記しています。就業者は男性がほとんどでしたが、女性の運転士もみられるようになっている、とも書かれていました。

2045年、何がこの仕事を変えたか

鉄道は、自動運転と相性のよい乗り物でした。決まった線路の上を、決まった順番で走ります。道路のように、対向車が急に飛び出してくることがありません。だから自動車より早く、装置に任せられる部分が広がりました。

2045年の都市部では、主要な路線の大半で、電車を自動で走らせる装置が標準になっています。発車の合図から加速、駅の停止位置に合わせて止めるところまで、装置が担当します。停止位置のずれは、人が操作していた頃より小さくなりました。

その一方で、装置が引き受けられなかった仕事が残りました。線路の上に、風で飛ばされたものが落ちている。踏切で、車が立ち往生している。走っている電車の中で、乗客が倒れる。地震のあと、線路がゆがんでいないかどうかを確かめながら、ゆっくり走るかどうかを決める。

どれも、その日、その場所で初めて起きる出来事です。装置は、決められた条件のなかでは人より正確に走らせます。けれど、条件の外側に出た瞬間に、決める人が必要になりました。

地域による差もあります。利用者の多い都市部の路線ほど自動化が進み、地方の路線では設備の更新が後回しになりました。結果として、地方のほうが人の運転士の割合が高いという逆転が起きています。

ある一日

増田真央は、運転士になって11年目です。始発の3時間前に出勤し、点呼を受けます。アルコールの検査と、その日の指示の確認。装置に任せる区間と、自分で操作する区間が、あらかじめ画面に表示されています。

最初の3往復は、画面の表示どおりに進みました。増田はハンドルに手を置いたまま、前方と、装置が読み取っている情報の両方を見ています。

4往復目の朝、駅と駅のあいだで装置が減速を始めました。線路脇の柵の内側に、自転車が倒れています。装置は物体を検知して速度を落としましたが、それが線路にかかっているかどうかまでは決めません。

増田は電車を止め、指令所に連絡しました。自転車の位置と、線路までの距離を伝えます。この区間は徐行で通します、と増田が言い、指令所が了解しました。3分の遅れが出ました。

昼過ぎ、車内で乗客が体調を崩しました。増田は次の駅で停車時間を延ばし、駅員が対応する間、車内放送を3回入れました。「3分ほど停車します」「ご協力ありがとうございます」「まもなく発車します」。遅れは5分に広がりました。

夕方、風が強くなりました。指令所から、規制値に近づいているという連絡が入ります。増田は橋の上の区間で速度を落とし、次の駅で1度停車しました。運転を打ち切るかどうかは指令所が決めますが、その判断の材料になるのは、現場を走っている運転士が見た揺れ方です。

その日、増田がハンドルを握って自分で加減速をした時間は、勤務のうち1時間半ほどでした。残りは、見て、伝えて、決めていました。

消えた業務・残った業務

分類業務
AIに代替定時運転の加減速/停止位置の合わせ込み/運転記録の作成/ダイヤどおりに走らせるための速度の選択
AIと協働発車前の車両点検/悪天候時の速度制限の適用/遅れを取り戻す運転の組み立て/指令所との情報のやり取り
人間に残る線路上の支障物への対応/乗客の急病と車内トラブルへの対処/異常時の避難誘導/地震や大雨のあとに走るか止めるかを決めること

それでも人間がやる価値

この仕事の核心は、走らせることではなく、止めると決めることに移りました。

走らせるのは、条件がそろっていれば装置のほうが正確です。しかし止める判断には、遅れという損と、安全という守るべきものを、その場で比べる作業が入ります。比べた結果に責任を負う人がいないと、鉄道は動かせません。

止める判断は、遅らせても困ります。線路の上に何かがあると気づいてから止めるまでの数秒は、装置が縮めてくれました。けれど、止めたあとに「これは徐行で通せる」「これは打ち切るべきだ」と決めるところは、2045年でも人の側にあります。

増田はこう言いました。「装置が上手になったぶん、こっちの仕事は判断だけになりました。楽になったかというと、逆です」

2045年の年収

この職業の年収は、二極化ではなく下支え型で動いています。自動化で人数は減りましたが、残った人に求められる判断の重さが増したこと、そして2024年度(令和6年度)の時点で有効求人倍率が1.3で人手が足りていなかったことが、待遇を支えました。

  • 2045年の年収(現在の貨幣価値換算・編集部予測)
  • 異常時の判断と、後進の指導・訓練まで担う層:900万円〜
  • 自動運転区間の監視が中心の層:700万円前後
  • 参考・2026年の平均:719.2万円(賃金構造基本統計調査)

2026年の平均を大きく下回る層が生まれにくいのは、この仕事が「1人でも欠けるとその電車が動かない」種類の仕事だからです。人数を減らしても、1本の電車に1人という下限は変わりませんでした。

この仕事を目指すきみへ

ミチルさんは、進路希望の用紙を西村のほうへ押し戻した。

「20年後にもあるか、というご質問でしたね。あります。ただ、あなたが想像している仕事とは、中身が違うかもしれません」

「運転しないってことですか」

「運転もします。でも、それは仕事の一部です。いちばん大事なところは、走らせるかどうかを決めるところに移りました」

西村はリュックを膝から下ろした。

「いまから積むといいのは、3つあります」ミチルさんは指を折った。「ひとつは、目の前のものを言葉にする練習。見たものを、正確に、短く人に伝えられるかどうかが、この仕事の中心になります。ふたつめは、体のリズムを崩さない習慣。交替制と宿泊勤務は、20年たっても残っています。みっつめは、理科と数学です。装置の言うことを鵜呑みにしないためには、なぜそう表示されているかがわかったほうがいい」

「文章と、生活と、理科ですか」

「その3つです。運転の技術は、入ってから教わればいい。教わって身につくものは、あとでいいんです」

西村は用紙を折りたたんで、ポケットに戻した。折り目は、来たときと同じところについていた。

【コラム】昼と夜が交替でやってくる仕事

2026年の時点で、電車運転士の労働条件には、はっきりした特徴がありました。厚生労働省の職業情報提供サイト(job tag)は「鉄道は昼夜を問わず通年運行しているので、交替制で勤務し、休日も交替でとる。夜間や早朝勤務の他に宿泊勤務もある」と説明しています。

宿泊勤務というのは、途中の駅の乗務員宿泊所に泊まり、翌朝また運転して戻ってくる形の勤務です。世の中の多くの仕事が朝に始まって夜に終わるのに対して、鉄道の現場は、始発を出すために夜のうちから動いています。

同サイトは、就業者は男性がほとんどだったが、女性の運転士もみられるようになっている、とも記していました。2045年には、この偏りはかなり小さくなっています。運転そのものに必要な体力の比重が下がり、判断と伝達の比重が上がったことが、その背景にありました。

まとめ

  • 電車運転士のAI代替率(編集部予測)は65%
  • 2026年の平均年収は719.2万円、平均年齢41歳、就業者数3万7130人、有効求人倍率1.3(job tag)
  • 決められたとおりに走らせる作業は装置へ移り、止めるかどうかを決める仕事が人間に残った
  • 2045年の年収は下支え型。異常時の判断と指導まで担う層は900万円〜、監視が中心の層は700万円前後
  • いまから積むとよいのは、見たものを短く正確に伝える力、交替制に耐える生活習慣、装置の表示を疑える理科と数学

厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)電車運転士

※本記事は公開情報・統計データにもとづく2026年時点の未来予測フィクションです。登場する人物・施設は架空のものです。制作体制については編集方針・AI利用ポリシーをご覧ください。

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