浴槽やバケツに白い粉を溶かして、上履きや五徳をひと晩沈めておく。SNSで「オキシ漬け」と呼ばれるあの掃除法を、一度は見かけたことがあるのではないでしょうか。
使われている酸素系漂白剤オキシクリーンは、アメリカ生まれの商品です。そのブランドを持っているのが、今回ご紹介するチャーチ・アンド・ドワイト、英語社名Church & Dwight Co., Inc.、ティッカーはCHDです。日本で社名を聞いたことがある人はほとんどいないと思いますが、この会社は2024年、日本でオキシクリーンを売ってきた会社そのものを買い取っています。
この会社は何をしているのか:重曹から広がった日用品メーカー
創業は1846年です。医師のオースティン・チャーチと、その義理の兄弟であるジョン・ドワイトが、重曹を商品として売り始めたのが始まりでした。最初の工場はドワイトの自宅の台所で、紙袋に手作業で詰めていたと、会社自身が沿革に書いています。
そこから180年、この会社は「重曹でできること」を軸に商品を増やしてきました。年次報告書のForm 10-Kによれば、2025年12月期の売上高は62億320万ドルです。事業はアメリカ国内の消費者向け、海外の消費者向け、工業や畜産向けの特殊製品の3つに分かれています。
代表商品:洗剤に猫砂に歯みがき粉 そしてコンドーム
主力は重曹ブランドのアーム・アンド・ハンマーです。重曹そのものに加えて、洗濯洗剤、猫砂、カーペット消臭剤、歯みがき粉と、重曹の性質を使える場所へ次々に展開してきました。会社が「パワーブランド」と呼ぶ7つのブランド、すなわちアーム・アンド・ハンマー、オキシクリーン、バティスト、ウォーターピック、セラブレス、ヒーロー、タッチランドで、売上と利益の約7割を占めています。
そして年次報告書のブランド一覧を読んでいて手が止まるのが、トロージャンです。同社の記載によると、アメリカのコンドーム市場で首位のブランドです。ほかにも妊娠検査薬のファースト・レスポンス、脱毛剤のネアー、口内鎮痛剤のオラジェルと、台所の重曹から出発した会社にしては、ずいぶん遠くまで来ています。
強み:買った瞬間から捨てられる前提の商品を作った
この会社の商売のうまさが一番よく出ているのが、1972年に打ち出した使い方です。重曹の箱を開けたまま冷蔵庫に入れておくと、においが取れる。中身を使い切らなくても、しばらくすれば新しい箱に替えることになります。減らないのに買い替えが起きる商品を、生活の習慣として定着させたわけです。
環境の話題に早い時期から乗ったのも特徴です。1970年には、全国流通の商品としては初めてとなるリンを含まない粉末洗濯洗剤を投入し、同じ年の4月に開かれた第1回アースデイでは唯一の企業スポンサーを務めた、と会社は記録しています。
もうひとつの柱が買収です。2006年8月7日、オレンジグロー・インターナショナルの純資産のほぼすべてを、3億2540万ドルと約440万ドルの手数料で取得しました。この中に含まれていたのがオキシクリーンです。買収前年にあたる2005年の対象事業の売上は約2億ドルでした。日本の家庭で「オキシ漬け」と呼ばれている商品は、この20年前の取引で今の持ち主のもとへ来たことになります。
日本との関係:オキシクリーンを売る会社ごと買った
日本でオキシクリーンを扱ってきたのは、東京都品川区の株式会社グラフィコです。同社の沿革によると、オキシクリーンが日本に上陸した1999年の時点では、グラフィコはまだデザイン会社で、日本版のパッケージや店頭販促を手伝う立場でした。その約10年後、日本での販売会社が撤退し、チャーチ・アンド・ドワイトが新しい売り手を探します。そこへ手を挙げて競合を勝ち抜き、2008年7月に日本での独占販売権を取得。同年10月に販売を始めました。
グラフィコはその後、SNSでの評判を店頭の販促につなげる地道な活動を重ね、2017年に再び火がついたと自社で振り返っています。現在は認知率90パーセント超。「オキシ漬け」という言い方が広まったことで、3月14日は「オキシクリーンの日」「オキシ漬けの日」として一般社団法人日本記念日協会に正式登録されています。ホワイトデーの白と、漂白の白を掛け合わせた日付です。
そして2024年、チャーチ・アンド・ドワイトはこの販売パートナーを買収しました。年次報告書には、2024年6月3日に約1990万ドルで株式を取得し、7月に残る少数株主分を約200万ドルで買い取ったと記されています。グラフィコ側の記録では、5月に株式公開買い付けが成立し、7月に東京証券取引所スタンダード市場を上場廃止となって完全子会社になりました。同社の売上高は2024年6月期で55億560万円です。
日本の店頭にあるオキシクリーンやドライシャンプーのバティストは、こうしてアメリカの重曹メーカーの日本部門が扱う商品になりました。
アメリカ人にとっては:冷蔵庫の白い箱と、自由の女神
アメリカの家庭では、この会社の重曹の箱は冷蔵庫の中にあるのが普通の光景です。腕がハンマーを振り上げるロゴは、日用品売り場のあちこちで目に入ります。
存在感を示す出来事として会社が挙げているのが、1986年です。自由の女神が完成100周年を迎えるのを前に、重曹100トンを使って像の内側が清掃されました。落としたのは99年分のコールタールで、繊細な銅を傷つけずに済んだと会社は記録しています。国の象徴のお手入れに、台所の粉が呼ばれたわけです。
オキシクリーンのほうは、テレビ通販の顔だったビリー・メイズの記憶と結びついている人が多い商品です。声の大きな売り込みで知られた人物で、2009年6月に50歳で亡くなったことは、AP通信の配信をはじめ複数の媒体が伝えています。
トリビア:あの腕は神様の腕だった
ロゴの腕とハンマーの由来は、意外と知られていません。1867年、創業者オースティン・チャーチの引退にあたって息子たちが会社を立ち上げた際、息子ジェームズが営んでいたバルカン・スパイス・ミルズという別会社の商標を持ち込んだものでした。ローマ神話の火の神バルカンが金床を打つ姿を表しています。重曹とは何の関係もない、香辛料屋の看板だったわけです。
もうひとつ。この会社は1860年から、重曹の使い道を紹介する小さなレシピ本を各家庭に送り続けました。刊行は137版を超え、その習慣はおよそ1世紀続いたといいます。創業者たちの妻の家庭料理が載った版もありました。使い道を教えることが、そのまま商品を売ることになる。180年やっていることの中身は、実はあまり変わっていないのかもしれません。
雑談で使える一言:自由の女神の内側についた99年分の汚れを落としたのは、重曹100トンでした。
これであなたは、500社のうち2社を知りました。
参考リンク
Church & Dwight Co., Inc. Form 10-K 2025年12月期
Church & Dwight Co., Inc. Form 10-K 2006年12月期
ARM & HAMMER 公式 About Us・沿革
株式会社グラフィコ 会社情報・沿革
株式会社グラフィコ オキシクリーンのエピソード
株式会社グラフィコ ニュースリリース
※この記事は、オアシス新聞の編集方針・AI利用ポリシーにもとづき、AIを活用して作成しています。


